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サプライズって周りの態度で大体分かっちゃう

──ここは…どこだろう。
身体中が変に痛む。心做しか少し重く感じる。
遠くの方で銀ちゃんたちの声がする。私を呼んでいる。
…行かなくちゃ……。

進もうとするけど、足が沼に取られたように動かない。動けない。
身体が沼の中に沈んでいく。銀ちゃんたちの声は止まない。
行かなきゃ。行きたい。早く。行かなきゃ。
もう顔まで沈んでしまいそうになった時、誰かの声が聞こえた。耳元で、低い声で、それでも優しい囁き声で。

「早く行け。お前だけでも……生き残れ。」

☆☆☆☆☆

ぼんやりと目を開けると、周りにいる人が歓声を上げた。私の名前を呼びながら、嬉し涙を流している。
真っ白い壁。天井。ベッド。
身体中が痛む中、起き上がろうとする。
……身体が動かない。
目だけを開けたまま、何も出来ない。

「神楽ちゃん、あなたね、街中で攘夷浪士率いるタチの悪い最凶軍団に襲われたのよ」
「それで今は麻酔がかかってて、顔の部位以外動かせないんだ。安静にするように言われてるから無理しちゃダメだよ」

志村姉弟に言われ、頷くように目を閉じた。
なんとか口は動かせる。私は口を開いた。

「……サドは?」

あれ?
私、なんでサドのこと…?

「ねえ、銀ちゃん。サドは?」

言おうとしていない言葉が何度も搾り出される。なんで…サドを探してるの?

「ねえ、アネゴ。新八。サドは?ねえ。知ってるんでしょ?」

みんな困った顔をしている。
こんなの……いや、言いたくない。
言いたくないのに、本能が、口が、サドのことを探している。
徐々に記憶が戻ってくる。

「ねえみんな……何で黙ってるアルカ?」

なんで私がサドを探しているのか。
少し思い出してしまった。涙目になる。
それを見たアネゴがたまらず後ろを向いた。
新八は俯いている。
銀ちゃんは窓の外を見つめたまま、言った。

「……やっぱ、覚えてたか。あのな、これから聞くこと、俺が言ったって言うなよ」
「うん」
「ショック受けるなよ。平常心で聞けよ。」
「うん」

何度も念を押してから、少し躊躇ったように銀ちゃんが話し出した。
それは、信じ難くて、信じたくなくて、何も思っていなくても、涙が零れるような、そんな内容だった。

☆☆☆☆☆

私が目を覚ましてから1週間。
10月10日。私は退院することが許された。
よかったね、と言われて、お祝いまでされて、喜ばしいはずだった。

でも、心の底から喜べなかった。

退院しても笑うことが出来なかった。
そんな私を見て、銀ちゃんはあの事が原因か、と聞いてきてくれた。
私はニッコリ笑って、あんなこと気にしてないヨ、そう言った。
感情と、真反対の事を。笑顔で。

あの日聞いたのは、私が本能的に探していた、サドのことだった。

『お前が襲われた時…近くで見ていた住民が、真選組に通報した。電話を受けたのが沖田くんで、お前が襲われたと聞いてパトカーぶっ飛ばして駆け付けて応戦した…と。ゴリラやマヨ野郎にも言わず、勝手にな。お前と沖田くん2人に対して相手は30人。圧倒的不利な状況の中、お前らは相手をほぼ全滅させるまでは耐えた。ただお前らも全滅させられそうだった。そん時な、相手が無情にも銃構えてお前を狙ったんだ。それに気付いた沖田くんが、お前を庇って致命傷食らった。その後お前も鉄バットで頭殴られて気絶したみてーだがな』

銀ちゃんはそう言って、私の肩をぽんと叩いた。忘れろ。そう言った。

でも私は覚えている。
あの時サドが、私を突き飛ばした時に言った言葉を。
血を流して倒れ込んだサドが、最後まで私を護ろうとしたことを。

普段負けることを知らないサドがあそこまでやられたのは、確実に私がいたからだ。
ボスを殺れば終わる話。でも、ボスを殺れば私も道連れにされる可能性があった。
サドは自分の名誉や自分の命より、私の命を選んだのだ。
早く行け。お前だけでも、生き残れ。
そう言い残して。

らしくない。アイツらしくない。
私なんて裏切って、私の命なんて捨てて、ボスの首を取ればよかったのに。
あの軍団は、かぶき町でも…いや、江戸でも名高い卑怯者達。
私を襲ったのは、私がアイツの弱点だと知っているからだろう。
尽く卑怯な奴らだ。そうでもしないと勝てないからだろう。

許せなかった。

『早く行け。お前だけでも……生き残れ。』
サドの声がこびりついて離れない。

死なせない。
いいカッコだけさせて死なせない。
あいつを殺るのは私だ。
やられたらやり返さなきゃいけない。
……借りも、だ。
待ってろヨ、サド。
次は私が……お前を守る番ネ。

☆☆☆☆☆

「定春。今日から私、あの事調べるネ」
「わん!」
「銀ちゃんたちにバレないように、地道に調べ続けるアル。協力してくれるアルカ?」
「わん!」
「よし、いい子アル。じゃ、行くアルヨ」
「わん!わん!」

定春との散歩。
……という名の、調査。

私があの一件のことを嗅ぎ回ってると知れば、アイツらはまた私を襲うだろう。
銀ちゃんたちに心配をかけるだろう。
そうならないように……バレないように。
ごく普通を装って、調べる。
サドへの、罪滅ぼしと言えばいいか。
ただ借りを返したい。アイツらが許せない。
それだけの事だ。

今分かっているのは、私たちを襲った奴らの名前。鎖伊弖遺愚魅、と言うらしい。
攘夷浪士たちが多く所属し、麻薬の闇取引や盗み、殺人、人身売買等数多くの罪を重ねてきた軍団だ。かつては攘夷戦争で銀ちゃんたちと肩を並べ戦っていたらしいが、どこで道を間違えたのか……。ただの犯罪集団に成り下がっているらしい。

「ほう……アイツらがそんな事を。全く、攘夷志士の風上にもおけん奴らに成り下がりおって。これだから攘夷浪士の評判が下がるのだ」
ヅラがため息をついた。

「しかしリーダー。その鎖伊弖遺愚魅に、リーダーや真選組の隊長殿を殺るような力があるのか」
「いや、ハッキリいえばないアル。でも、私たちが本気を出せない状況を作り出して卑怯な手を使って私たちを殺ったのヨ」
「本気を出せない状況?」
「ウン。本気を出せばアイツらなんて1発だったアル。でも、あのボスを殺れば私やサドが道連れにされる可能性があったネ」
「それで、リーダーも沖田殿も本気を出せなかった、と?」
「そうヨ」
「普段から死ね等と罵っている二人が、相手を庇うために本気を出さずに致命傷を負ったのか。本当に死んで欲しいなら、そこで裏切れば簡単に死ぬだろう」

ヅラが軽くそう言う。
隣でエリーも「それな」と書かれたプラカードを上げた。

「…違うのヨ。あいつには死んで欲しい。でも、自分の、この手で殺らなければ意味がないアル。他のやつに殺られて死ぬくらいなら、生きていて欲しいネ」
「なるほど…。鎖伊弖遺愚魅がリーダーを襲い沖田殿を呼び込んだのも、それを見抜いての事だろう。弱い所をつかれたのだな、リーダー。夜兎の少女と真選組一の剣士。弱点がないように見えて、実はお互いがお互いの弱点。彼奴らもない頭で考えたものだ」

エリーが「優しいからこその弱点」とプラカードを上げる。定春が横でわん!と吠えた。

「仲間、ライバル、家族、友達。自分が死んでもそれらの大切なものを護りたいという気持ち。侍の唯一の弱点に当たる所を上手くついてきたということか」
「ヅラ……私、アイツらが許せないアル。仕返しがしたい……銀ちゃんの手も誰の手も借りず、この手で」

私がそういうと、ヅラは少し考えてから言った。

「……証拠と、奴らの弱い所をつくことだ。こんな卑怯な奴の情に訴えることは不可能と言っていいだろう。仲間が死ぬのを笑顔で見ているような奴らだからな。俺はいつでも力になる。なんでも言ってくれ」
「ありがとう、ヅラ。頑張るアル、私」
「ヅラじゃない桂だ。頑張れよリーダー」

ヅラは、そう言って手を挙げて帰って行った。

☆☆☆☆☆

──証拠…か。
確かに、反撃に行った時に俺たちじゃないなんて言われれば全て水の泡だ。現場には証拠ひとつ残されていなかった。私が見たと言えど、嘘をついているなど言われれば終い。

なにか残っていなかったっけ……そう思い、ふとチャイナ服のポケットを触った。

何やら硬い感触。確かこの服、襲われた時に着ていたやつだ。もしかして、証拠?
ポケットに手を突っ込むと、四角い何かが入っている。触ったことのある感触…これは。

出してみると、返り血を浴びた赤黒い物体。
ところどころ金色の線が入っている。
真選組の、隊服のデザインだった。

それは紛れもない、沖田の携帯。
何度も何度も喧嘩している時に落として、ヒビが入っている。
喧嘩の後奢れと脅した時に、沖田がどこがいいか調べてくれたり。
無理矢理ぶんどってゲームをしたり。
使い勝手も分かり切ってしまった、携帯。

なんでこんな所に……と思いつつ、いろいろ探ってみる。
ふと間違えて、メモアプリをタップしてしまった。戻ろうとホームボタンを押そうとする。

そこには、2件のメモ。
一個目には、色んな人の誕生日と欲しそうなものがメモしてあった。
一番下に私の誕生日が載ってある。
“チャイナ 11月3日”
欲しそうなものの欄は空白で、その代わりに写真が2枚貼ってある。
私の満面の笑顔の写真と、月兎デザインの簪。

いつ撮ったのか。いつから計画していたのか。
「んだヨ……馬鹿サドが……」
口からそう零れる。涙も同時に零れた。
誕生日プレゼントをせがんでも、ガキは酢昆布でいいだろなんて言われ続けてたのに。

気を取り直してもう1件のメモを開く。
そこには、私を襲う鎖伊弖遺愚魅のボスの写真とその子分の写真、顔がどれもはっきり写ったものばかりだった。

『チャイナへ
この写真はお前に託す
唯一の証拠になるだろうから』

☆☆☆☆☆

あの日から1ヶ月。
11月3日、私の誕生日。
珍しく朝早起きした私は、銀ちゃんが寝ていることを確認して机に手紙を置いた。
『ろくじはんには、かえります。
ぷれぜんと、きたいしてるからね
かぐら』

そっと、定春さえも起こさないように万事屋を出る。
沖田の携帯と、集めた証拠を持って。
アジトの場所も突き止めた。案外近くにあるもんだなー、と感心してしまった。

──1ヶ月も経ったのに、沖田は目を覚まさないみたいだった。
面会も拒否されて、それどころか真選組の隊士にさえも会っていない。

今はそんなところ気にしている場合じゃない。
誕生日とかもどうでもいい。
ただ、あいつの敵を。
沖田の敵を取りたい。
それだけ。

アジトに着くと、思ったよりボロアパートで少し気が抜けた。
…いやいや、油断しちゃいけない。
相手は一度負けた奴ら。本気を出せば…だなんて抜かしていても、あっちも本気を出せばもっと強いとかになると話は別。

「……万事屋神楽…参るアル」
「わん!」

後ろから定春の声がした。
定春は連れてきていないのに…後ろを見ると、水臭いじゃんみたいな感じで佇んでいた。

「……助けに来てくれたアルカ?」
「わん!」

定春が笑った気がした。

「さあ!万事屋神楽と定春、参るアル!」
「わん!!」

☆☆☆☆☆

どかーん!とアパートをぶっ壊し、あいつらの前に立ちはだかる……

みたいにしたかったけどさすがに危ないので、そーっとアパートに入っていった。

アパートだと思って入ってみると、中は廃工場のようないかにもな雰囲気の部屋。
ぴーんぽーん、と呼び鈴を鳴らす。

「すいませーん、宅配便でーす」
「ん?そんなもの頼んで…」

出てきたやつの顔面に思いっきり蹴りを入れてやる。ぐはぁっ、と血を吐いて倒れた。

「うさぎ宅急便の神楽と定春が、仕返しをお届けに参りましたヨ」

定春が勢いよく飛び出してあばれまわる。
噛み付いたり引っ掻いたり、私も応戦する。

「おい!何をしてくれている小娘!」
「はァ?こっちのセリフヨじじぃが。よくも私の大切な好敵手、傷ものにしてくれたアルナ」
「ふん、そんなこと記憶にないなァ?俺たちゃ殺ンのは悪党のみって決めてるんでね、お嬢ちゃんの好敵手が悪党だっただけじゃねえのかい?」
「確かにアイツは悪党アルナ。根っからのくせ者ヨ。でもな、てめえらと違って卑怯者じゃないアル。まっっすぐ芯通った、優しいとこは優しい良い奴ネ」
「ふうん、そうかいそうかい。で、俺達がそいつをやったという証拠はあんのかい?」
「ああ、あるネ。この写真が証拠ヨ」

スッと沖田の携帯を突き出す。

「な?犯行の様子も顔もくっきり写ってんダロ?」
「そんな写真……!盗撮だ!犯罪になるだろう!!」
「ウンそうアルナ。これは盗撮ネ。でもなオッサン。お前は暴行罪に窃盗罪、脅迫罪に殺人罪まで重ねてるのにそんなこと言えるアルカ?」
「…おい小娘。そんなことまで嗅ぎまわったのか?その年で一丁前に探偵ごっこか?」
「探偵ごっこ…まあなんとでも言えヨ」
「警察にそれ突き出せば小さい探偵さんはブタ箱行きだぜ?ブタ箱入りたくなきゃ謝りな、ガキは大人しく駄菓子でも食っとけ」

ジャキン…

刃が抜かれる金属音がする。

「私のことガキだなんだ言ってる割には、ガキ相手に真剣だなんて大人気ないオッサンアルナ」
「その口、二度と聞けないようにしてやるわ」
「ちなみに忠告しとくアル、オッサン。オッサンが言ってる警察……私の仲間ネ」

オッサンがイカれた目をして斬りかかってくる。沖田の剣と比べれば比べ物にならないくらい弱っちい。

私は傘で剣を弾き、一発腹に銃弾を決め込んでやった。

「安心しなオッサン。致命傷になるような場所は外してやったアル」

ドサッ
時間差でオッサンが倒れる音がした。

☆☆☆☆☆

「もしもしぃ〜、真選組ですかぁ〜」

沖田の携帯から勝手に真選組に電話をかける。
電話に出たのは、トシだった。

『チャイナ娘……?お前、怪我は』
「おう!治ったアル。」
『今日誕生日じゃねえのか?』
「おう!そうヨ」
『そんなチャイナ娘がここに何の用だ』
「沖田をやりやがった組織、ぶっ壊したアル。ブタ箱放り込んで欲しいネ」
『…総悟をやった組織……ってお前まさか』
「私一人で一発ヨ。まあ、定春も手伝ってくれたけどナ」
『危ねぇだろ!何してんだ!ったく、万事屋が聞いたらなんて言うか』
「無傷だから大丈夫ヨ。私はただ、あいつの敵取りたかっただけ…というか、あんな卑怯な手を使う奴らが許せなかっただけアル。」
『……そうか。今から向かう。まだアジトにいるのか』
「おう、まだいるヨ」
『……あれ?これ何からかけてる』
「沖田の携帯」
『なんでチャイナ娘が?』
「あの時、私をかばった時、あいつが私の服のポケットに入れてたアル。しっかり犯行現場と顔が写った写真がデータに入ってたヨ」
『…なるほど。場所を特定したから急行する。あまり無茶はするなそしてそこから動くな。分かったな?』
「あいあいさー」

電話を切ると10秒後ぐらいにサイレンが聞こえてきてトシが入ってきた。
結構派手にやったもんだから、トシは引いてた。でも定春も私も、致命傷になるような場所は外してやったから死んではいないだろう。まあ、4分の3殺しってところだ。

「チャイナ娘、誕生日にご苦労だった。こいつァ誕生日プレゼントと今回のギャラを兼ねてだ。万事屋には渡すなよ、お前が使え」

トシに渡された封筒には、1万円札が10枚ほど入っていた。
思わずうぉぉっと声を上げる私に、トシが笑っていた。

☆☆☆☆☆

万事屋に帰るなり、クラッカーが私をお出迎えした。銀ちゃん、新八、アネゴ、さらにはツッキーやさっちゃん、ゴリもいた。
あとからトシも来て、賑やかになった。
ケーキと、たくさんのプレゼント。
鎖伊弖遺愚魅をやったことを報告すると、少し怒られかけたけど褒められた。

万事屋の居間には、私以外に7人来ていた。
チャイムがなり、私が出るとバカ兄貴まで来た。それに、あのハゲも一緒だった。

「……プレゼント少なくね?」

私は思わず零した。
9人いるのに、7個しかない。
トシからはお金を貰ったけど、それとこれは別だ。何か追加でくれてもいいだろう。
ふざけんな誰だよ、と思っていると、ゴリとトシがニヤリと笑った。

「わりぃなチャイナ娘。やっとプレゼントが到着したみてえだ」
「トシと俺、二人からのプレゼントだ。玄関に出てみろ」

二人がそう自信満々に言う。
巨大酢昆布?巨大ケーキ?
なんだろう。

ワクワクしながら玄関に出る。
すると、何も無い。

「おい!トシ!ゴリ!騙してんじゃねぇぞごらドタマぶち抜いたろかぁ!」
「チャイナさん落ち着いて。目を閉じて、いいよって言ったら開けてくれ」

ったく、仕方ないアルナ。
そう呟き、目を閉じた。

ざっ、ざっ、ざっ

足音がする。
宅配便?宅急便?
なにかお届け物?

──いや、違う。
この足音は…

ゴリがいいよ、という前に、目を開けてしまった。

「…なんでィチャイナ。フライングじゃねェか。いいよって言う前に目を開けるのは反則だぜィ」

目を見張った。
憎たらしい声も。
亜麻色の髪も。
いつもの着流しも。

沖田だった。
紛いもない沖田総悟がそこに立っていた。

「……お前っ…怪我は…」
「医者からは1年かかると言われてたんだがねェ。あいにくお前の誕生日の日に退院しちまった。俺ァお前に呪われてんのかねィ」

少しいつもより優しく笑う沖田の顔。
いつも通りの沖田。
それだけで、涙が出てきた。

「おいおい、俺を見て泣くとはどうしちまったんでィ。怪我と一緒に頭までやられたかぃ?」
「んなわけ……ねぇだろくそドS…!心配したんだからな……」

沖田は私を見て、ぽんぽんと頭を叩いてきた。
そして何も言わず、箱を差し出してきた。
「てめぇのことだから、いらねぇメモまで見たんだろィ。そこに書いてたやつだ、有難く受け取れ」
「胸糞わりぃけど貰ってやるヨ」
「素直じゃねぇなクソアマ」
「んだよくそドSが」

憎まれ口を叩けるのが、どんなに幸せか。
誕生日に最高のプレゼントをもらった。
ありがとうな、サド。
生きててくれて…ありがとう。

☆☆☆☆☆

「お前アジトに1人で乗り込んだって?」
「うん。じじいはジジイだったアル」
「へぇ」

いつもの公園で、二人で並んでベンチに座る。
今日は喧嘩はしない。当分無しだ。
ドクターストップがかかっているらしい。喧嘩はするな、と。

「……ところでさぁ、お前、男が女に簪送る意味って知ってっか」
「……なんだろネ知らないアル」
「嘘ついてんだろィ」

サドがちらっとこっちを見やる。
私はサドを見つめた。

「結婚してくださいって意味なんダロ?アネゴが言ってたヨ」
「おーよく知ってんじゃねぇか」

沈黙。
こいつはどこまで芋侍なんだろう。そこまで言うならもう結婚してくださいとか言えばいいのに。ばかなのか、ばかなんだな。

「結婚してください」
うわ、言ったよ。こいつ言ったよ。
言うと思わなかったやれば出来んじゃねえか芋侍でも。

「おい、返事は?」
「うーん、さあ分からないアル」
「はぁ?ふざけんなこっちが勇気振り絞って言ったってのに」
「お前、好きでもない男のために1人でアジト乗り込むと思うカ?察しろよ芋侍」
「……あーそ」
「んだよそれ気持ちわりぃナ」
「おい気持ちわりぃは酷くねえか傷つくよお巡りさん」
「てかお付き合いすっ飛ばして結婚とかバカだろ」
「いやもういいだろヤりあってんだし」
「そっちはやってねえヨ!殺るのはやってるけどヤってはねえヨ!」
「素直じゃねえな」
「いやお前が言うなヨ。てかまだ私15ヨ」
「あー、そうだったねィ」
「だからあと1年……待つヨロシ」
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