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サプライズって周りの態度で大体分かっちゃう

──今思えば、全て緻密な計算の元に起こった事件なのかもしれない。

公園で、攘夷浪士共が少女を襲っている、と。真選組に通報が入った。
その電話を取ったのがたまたま俺で、少女の特徴がチャイナに全て当てはまっていて、俺は後先考えずに飛び出した。
ザキにも神山にも土方さんにも近藤さんにも、なんにも言わずに。

公園に着くと、そこそこの攘夷浪士が血の海の中倒れていた。
チャイナが肩で息をしながら立っている。怪我はあまりしていないようだった。

「おーおー、結構暴れたようだねィ、チャイナさんよォ」
「…サド。お前、何しに来たアルか」
「さぁな。こっちが聞きてェや。うちに通報が入って、気が付いたらここにいたんでさァ」
「お前どんだけ私のこと好きアルカ」
「さぁ、どれだけだろうねィ」

肩で息をしているものの、自我は保っている。
夜兎の血は暴走していないようだ。
俺はバレないようにスマホでそいつらの顔をしっかりと収めた。
証拠を獲得した、後は暴れりゃいい。

「いくぜィ」
「言われなくてもそうするアル」

その後の記憶は、あまりない。
ただただ暴れ、こっちも負傷した。
チャイナが足をやられて動けないところを、無惨にもじじいが銃で狙っているのが見えた。

あの時の俺は、狂っていたのかもしれない。
チャイナに体当たりし、その隙にチャイナの服のポケットにスマホを突っ込んだ。

「早く行け。お前だけでも……生き残れ。」

☆☆☆☆☆

目を開ける。
ぼんやりした視界の中、誰もいない病室にいるのだと理解する。
何故こんなことになったのか。走馬灯のように記憶が駆け巡っていく。

「チャイ…ナ……」

ぼそっと口にする。思うような声が出ない。
いつもより低く掠れた声で、俺はあいつの名前を呼んだ。
いるはずないのに。

すると病室のドアが大きな音を立てて開いた。
近藤さんと土方さん。焦ったように入ってきて、目を開いた俺を見て泣き出した。
土方は泣いていないものの、心底安心したような、複雑な表情を浮かべた。

「覚えてるか。チャイナ娘を庇って…」
「覚えてまさァ。で、アイツは?無事なんですかィ」

いつもよりゆっくりと、低く、掠れた、小さな声で。必死にあいつの容態を聞いた。
土方と近藤さんは、ベッドの枕元にある椅子に座って少し微笑んだ。

「ああ、お前のお陰でな。あの後鉄バットのようなもので頭ぶん殴られてるみてぇだが、記憶障害もなく元気だと」
「今…何日ですかィ」
「今日は10月10日、チャイナさんは今日退院だそうだ」

近藤さんが答えながら鼻水を啜る。
う…汚ぇ。ちょっとはティッシュとかでかもうとか思わねぇのかこの人は。

「……チャイナ娘が面会を要求してる。お前が目覚めるまで待てと伝えてるがどうする?」
「アイツが俺に面会したいと?面白いこともあったもんだ。たまには怪我もいいもんですねィ」
「呑気なこと言ってる場合じゃねえだろ。医者からは1年かかると言われてる。それまでチャイナ娘に会えないし、一番隊復帰も無理だ」

土方が煙草を出そうとする。近藤さんが止めると、顔を少し引き攣らせて煙草をなおした。

「…どうする。面会は」
「目覚めてねえ事にしてくだせェ。アイツが無事なら俺ァ、死んだことになっても構いやせんぜ」
「……そうか。そう伝えておく」

土方が席を立つ。
近藤さんはそこを動こうとしなかった。

「土方さん」

ドアに手をかけた土方が動きを止める。
ゆっくりこっちを振り向き、
「なんだ」
と答える。

「……お医者さんに…伝えてくだせェ。どんな辛い治療でも、なんでも受ける。だからどうか……退院を、11月3日に合わせて欲しい、と」
「…わかった。辛い治療に耐えるのも大事だが、始末書もちゃんとしろよ」
「今回の事は始末書じゃ済まねぇぞ。俺たちをもう少し頼ってもよかったんじゃないのか」

近藤さんと土方がそう言う。
俺は、窓の外を眺めながら言った。

「……なんででしょうねィ」

☆☆☆☆☆

毎日毎日、近藤さんや土方さん、旦那、新八くんなど、色んな人が見舞いに来てくれた。
旦那も新八くんも、チャイナには黙っておいてくれると約束してくれた。
旦那は3日に1度くらいのペースで来てくれて、チャイナがどうしてるか知らせてくれた。

始末書の量はいつもより多く、同じような単純作業でウンザリしていた。
治療もなんとか進み、怪我も順調に治っていった。

10月31日。ハロウィンの日。
旦那がスマホを持って見舞いに来てくれた。

「あれ?旦那、スマホなんて持ってました?」
「これ、辰馬の。今日ハロウィンだろ?神楽が仮装したい仮装したいうるさいからよ、月詠に作ってもらってご機嫌なんだよ。写真、見せてやろうと思って」

旦那が慣れたように操作して、画面を俺に向ける。
魔女の仮装をしたチャイナが、ウインクしたりポーズを撮ったり、とにかくノリノリだった。

可愛いな。
口元が緩んでしまう。

「神楽、最近心做しか元気なくてよォ、銀さんもう大変なんだよ。一日一回、必ず沖田くんのこと聞かれるし。今日なんて、これをサドに見せつけてやりたいなんて言ってたなァ」
「そうですかィ。そんなに俺の事を?」
「そうそう。もう嘘つくのも大変で仕方ないし、ボロが出ないように気をつけないといけないし。一応真選組の野郎どもには全く会わせてないんだけど」

旦那は、お見舞いのフルーツに手を伸ばしながら続ける。

「最近はよく働くよー、神楽ちゃん。毎日毎日定春の散歩行ってくれるし」
「それはそれは」

旦那は満足そうにリンゴを頬張っている。
チャイナが俺がいない間にそんなに俺を心配してるとか…やばくね?理性が。
俺退院した時にチャイナ見た瞬間飛びついちゃうかもしれねえよ。可愛すぎんだろィバ神楽ちゃん。なんなんでィ。

「で、沖田くん。怪我の容態は??」
「うーんまぁ、頑張ってるとこでさァ。始末書に追われながら治療に耐えてるって感じでねィ上手く行けば11月3日には間に合うかと」
「それはよかった」

旦那はそう言うと、スッと立ち上がり枕元のテーブルに300円を置いた。
「300円あげるからさ、なんとかあいつの誕生日には退院してくれよ」
「ケチな旦那が300円だなんて珍しい…」
「んだよその言い草」
「嘘ですって…そんなん貰わなくてもそのつもりでさァ。まだ、許可は出てませんがね」

旦那は軽く手を挙げて病室を出て行った。
枕元のテーブルに目を戻すと、300円は綺麗に無くなっていた。
「ったくあの人は……」

☆☆☆☆☆

11月3日。
退院の許可が降りた。

なんとなく身体も心も軽い。
スキップでもしだしそうな気分だった。

「チャイナ娘への俺らからのプレゼント、お前だから」
「バレないように頼むぜ総悟」

そう近藤さんと土方に言われ、黒いカーテンのはられたタクシーに乗せられた。
大袈裟だな…と思いつつも、俺は近藤さんたちに従った。

屯所に着き、自分の部屋に布団を敷き寝そべった。病室にいても休まらなかった心が、自室で寝ることで休まっていくのを感じる。
過保護過ぎる土方が、俺の隣を陣取って座りずっと資料に目を通している。
こんなにこいつと一緒にいるのは、多分小さい時以来だ。

するとその時、真選組の電話が鳴った。
土方が電話を取り、目を見開く。

話し終わると、土方は俺を見てニヤリと笑った。
「今日はてめえにもプレゼントが回るみてえだな」

……は?
何言ってんだこいつ死ね土方。

と思ったのもつかの間、数人が土方と共にパトカーで出陣していった。
土方と入れ替わるようにザキが来て、にこっと笑った。

「沖田隊長、さっきの電話の相手知ってます?聞いたら驚くと思いますよ」
「さぁな。姉上くれぇじゃねえと俺ァ驚かねぇぜ」
「それはハードル高すぎますよ……。さっきの相手、チャイナさんです」
「チャイナが。なんで?」
「沖田隊長とチャイナさんを襲った攘夷浪士共の集まりである鎖伊弖遺愚魅を、万全な証拠を持ってチャイナさんがぶっ倒したんですって」
「へぇ……それで通報を」
「そういうことです。副長曰く、チャイナさんは沖田隊長の敵を取りたかった、卑怯な手を使うあいつらが許せなかったと」
「俺の敵ねぇ…俺もう死んでるみてえだな」
「まあでも、チャイナさんはそれを望んでないと思いますよ」

生きてて欲しいって思ってるはずですから、と言いながらザキがお茶を入れた。
お茶を飲み終わる頃、土方から連絡が来た。
奴らを捕らえた、ブタ箱放り込んでやる、と。

☆☆☆☆☆

その日の夜だった。
近藤さんは姐さんのストーカーも兼ねて万事屋へ先に行った。
土方もその後追いかけるように行った。
「てめえはプレゼントだからな。10分後くらいに来い」
「へえへえ」

土方に言われ、10分後くらいに屯所を出た。
外は少し冷え込んでいる。
リハビリも兼ねてゆっくり万事屋へ歩いていく。
会った時あいつは、どんな反応をするか。
用意してるプレゼントを見た時、なんて言うか。

楽しみで仕方がなかった。

早く会いたい。

そう思うと足取りも早くなる。

万事屋の戸が勢いよく開いたのが見えた。
チャイナが吠えている。
近藤さんが合図をするまで目をつぶれとチャイナに言うのが聞こえる。

ゆっくりと、1歩ずつ。
チャイナの前へ。

近藤さんの合図を待たずに目を開けた、チャイナ。俺を見て涙目になっている。

───お誕生日おめでとう。
生まれてくれてありがとう。
生きていてくれて……ありがとう。
チャイナ。
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