遠距離恋愛-The song for you- (桐島ヒロミ)

「きれい」


窓から見上げた空には、欠けた月がうかんでいる。

一緒に見れたらいいのに…



ヒロミと離れてもうずいぶんたつ。

だいぶ慣れたつもりだけど、時々、こんな風に寂しさや悲しみに襲われる。



その気持ちに負けて私は携帯を取った。


涙が出てから電話するよりはいい。

心配させるから。
ヒロミとは笑って話したい。




トゥルル、

『どうした?』

思い掛けず、ワンコールでヒロミは出た。

「今大丈夫?」
『ああ』
「用はないんだけど」
『そうか』

見えなくても、ヒロミが微笑むのが分かる。


「最近は忙しい?」
『そうでもないな』
「そっか」
『なんかあったんだろ?』

バレバレだな、

「あのね…今度のライブ行けそうにないんだ。
仕事入っちゃって」

これが今夜の、寂しさと悲しさの原因。


『仕事じゃ仕方ねーな』
「…うん」

分かってる、

でも、


「会いたかったし、ヒロミの歌、聴きたかったな、」

明るく言ってみても、ぼんやりと瞳が潤む。



『目ぇ閉じろよ』
「え?なんで?」
『いいから』

私は言われたとおりに瞼を閉じた。

『閉じたか?』
「うん…」



突然、
ヒロミは歌い出した。


いつもの大きな高い声ではなく、
小さくそっと囁くように

・・・

それは、ラブソングだった。


ああそうか、


目を閉じていると、まるで耳元でヒロミが歌っているみたいだ。




『ちゃんと聴こえたか?』
「うん…」
『お前にしか歌わねーから』
「…うん」

『いつでも歌ってやる』

「ヒロミ、ありがとう」




開いた目で再び見つめた月、

電話の向こうで、きっとヒロミも見ている。

そう、思った。



どんなに離れていても
心は、繋がっている。

End.
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