惚れたが負け(武田好誠)

夏の暑さも、カレンダーをめくると同時に落ち着いてきた。

そうかと思えば今度は連日の雨。


部屋の中でのんびりと過ごす、そう言えば聞こえはいいが、
一緒にいるのに好誠はバイク雑誌から顔を上げない。


「ねえ」


話しかけても返事がない。

仕方ないので壁に寄りかかり、私も読みかけの本を手に取った。



雨と、ぺらぺらとページをめくる音。


しばらくして、


「おい」

「なぁ」


そう声をかけられても今度は私が読みふけっていて

「うーん?」

と、気のない返事。




とん。

と、左肩に好誠の額が当たる。

「聞いてんのか?」

セットされていない髪はさらさらと私の肩に触れる。

「んー」


ばっと、突然本を取り上げられた。


「もう何よ、読んでんのに」
「聞いてないだろ?」

「お互い様でしょ。
ちょ、返して、今いいとこなんだから」
「オレが暇だからもう読むな」
「はぁ?」


「…なぁ、構えよ」

そう言って、本は遠くに放り投げられた。

「我が儘だねー」

呆れて好誠の方を向くと、

「当たり前だ」と悪気もなく笑う。


私はその顔に、弱い。


今度は私が好誠の肩に頭を乗せた。
ふんわりと、好誠の匂いがする。


ああ、

惚れた人には敵わない…





End.
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