Sweetheart's night(村田十三)

年に一度の花火大会の日、
「めんどくせー」という十三に無理矢理約束を取り付けた。



『仕方ねーな、じゃあ後で迎えに行くから』
「あ、来なくていい」
『は?』
「待ち合わせにしよう?でもバイクでは来ないで」
『あ?何で?』
「いいから!」


そう約束をして電話を切った。






「ごめ―ん」

待ち合わせの場所で待っていた十三に後ろから声をかけた。

「おせ―…

振り向きざまにそう言いかけて十三は言葉を止めた。


「なんだそりゃ?」

「何って、浴衣」

「………」

「何よ?」

「それで単車で来るなって言ったのか」
「だってさすがに乗れないじゃん。それより感想とかないわけ?」

カラシ色のこの浴衣は大人っぽくて気に入っている。

「………いいんじゃね―か?」

それだけ?っと頬を膨らませて見せたけど、内心うれしくて“着て来て良かった”と思った。

「じゃあ行くか」
「うん」



日もすっかり暮れて、会場の河原はもう人でいっぱいだった。


「はぐれるなよ」

十三は私の手を取ると、歩きづらい私を背中で守るように前を歩いてくれた。

全く…
惚れ直させようとこんな格好して来たのに、惚れ直したのは私のほうだよ。
すぐ目の前の、十三の背中を見て顔が熱くなる。





出店をチラチラと覗き見て「かき氷が食べたい」とねだった。

十三は「ガキだな―」って言いながらもちゃんと買ってくれた。



ヒュ―… ドンっ

あ、

っと足を止めて空を見上げれば、大きく夜空に花が開いた。

その花が消えるのを皮切りに次々に花火が打ち上がる。




「おい。もう少し先で見るぞ」

十三にそう言われ、夜空に咲く花々に見とれながら歩く。




「人混みじゃみれねー」

と、人が空いた土手まで歩いて二人で腰を下ろした。


しゃこしゃこと、買ってもらったかき氷をつつきながら「きれーだね」と花火に見入っていると、
いつの間にか十三が私の真後ろに来ていて、
私は十三にすっぽりと包み込まれるみたいに寄りかかって夜空を見てた。







ヒュ―… ヒュ―…  ドン、ドン、ドン、ドン

ドンっ


最後に一際大きく開いた花は、いつまでも夜空に尾を引き、
まるで消えるのを惜しむかのように見えて、その光が完全に闇と同化してしまうまで目がそらせなかった。


あ―夏も終わりだな…

十三と見れて良かった。




「んじゃあそろそろ帰りますか?」

後ろを振り向いてそう十三に問いかけると

「帰らねー」

と、返事が返ってきた。

「は?」
「まだ帰さねー」
「…は?」
「お前ね、こんな格好で来て、このまま帰すと思ってるのか?」

…………

「えー!!うそでしょ?!」
「うそじゃない」
「ちょっと今日はマズイって!!浴衣自分で着れないし!!」
「人混みで乱れたことにしとけばいい」
「無理無理、絶っ対無理だよ」

立ち上がって逃れようとしたら、しっかりと後ろか抱きしめられて

「何もココでって言ってるわけじゃねーぞ?」

そう囁かれた。


「当たり前でしょ!!」


だけど、私の話なんて全然聞いてなくて

「ここがそそられる。!!


結い上げた首筋にキスを落とされた。



「似合ってるぞコレ」そう言って笑った十三に
「…ばかっ…」っと言うだけで精一杯で、



帰ったらどう言い訳しようかと考えながら、体を後ろに反転させ、
十三と唇を重ねた。



              








―結局、買った着付けの本を見て、器用な十三が着せてくれた。笑―


End.
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