愛情が埋めるモノ(武田好誠)

目の前に吐き出された紫煙。
それはゆっくりと無色透明になって、部屋の中に溶けていく。

悩ましい香りだけを残して。


「あ―…」
「どうした?」
「…口が寂しい…」
「そ―か」


“そ―か”って…

私は目の前で美味そうにタバコを燻らす好誠を恨めしげに見つめた。

さっき食べたお昼ごはんまでは我慢出来た。
でも、このコ―ヒ―とチョコレートの前では吸いたい欲望が沸き上がる。


はあ…

タバコの値上がりと健康のために禁煙を始めて早三日。
もうかなり、限界。


「ひとくち、ダメ?」
「ダメ」
「けちっ!!」
「お前が吸いたくなったら止めてくれっつたんだろ」


そ―だけど…


コ―ヒ―とチョコレート、そしてタバコ。
私の中で至極の組み合わせなのよ…


「ま、一週間もすりゃ慣れるさ」


最後の煙りを細く吐きながら、好誠は灰皿にタバコを押し付けた。


「目の前で吸われると、キツイ…」
「んじゃあ、お前の前で吸わね―ようにするか?」
「それもイヤ」


好誠がタバコを銜える姿こそ、私の大好物ですから。


う―…タバコ、吸いたい。





「なあ、協力出来ること思いついたぞ」
「え、何?」




ぐいっ、と好誠に身体を引かれて、唇が重ねられた。

目を閉じる間もない私の瞳に、好誠の瞳が映り
それが細く笑ったのと同時に、好誠の舌が私の舌を探してきた。


「ん…」


ほろ苦い、タバコの味…










「吸わせ―ね―けど、口が寂しいなら後味くらい分けてやる」

そう、数センチだけ離れた唇が、弧を描く。


「タバコより中毒性あるかもよ?」
「お互いにな」



ふふっ、と笑うと、再び唇を塞がれて。


深くなるキスを、首に手を回して、受け止めた。




(禁煙、いけるかも…)
(…だろ?)


End.
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