暗闇の中の真実(村田十三)
アニキが女と別れた。
誰から聞いたのか
そういや最近連れてねーな、くらいにしか思ってなかった。
集会が終わった深夜
玄関を開けると、家の中は真っ暗だった。
ひっそりとした廊下を渡り、自分の部屋に入ろうとした時
アニキの部屋のドアが僅かに開いていることに気づいた。
確か出かける時は閉まってた…
「いるのか?」
ドアごしに声をかける。
「集会か?」
返事変わりの質問に「ああ」と答えながら中を覗くと、窓辺にアニキが座っていた。
カラン、
グラスを回す音がして、強いアルコールの匂いが揺れる。
「電気も点けずに飲んでんのかよ」
「この方が旨いんだよ」
月も出てない暗闇で、アニキは薄く笑う。
なんとなく、
飲んでる理由が分った。
「なぁ…惚れてんならなんで別れたんだよ」
「惚れてるから、別れたのさ」
迷いなんて微塵もない答えに、思わずため息をついた。
「分んねー」
「ガキ」
フッ、と笑ったアニキの横顔は、
寂しそうで、
幸せそうに見えた。
―全ては、暗闇の中の真実。
End.