甘い罠(花木九里虎)

気持ちよい秋の晴れ空。


「今日こそデートしてくれんね?」



今日も懲りずに声を掛けてきたのは巷で有名な変態男こと、
花木九里虎。


「イ、ヤ」

「毎日毎日そげんいわんと、絶対楽しかよ~?」

「うるさい」

「つれなかねー。ま、そこがよかとばってん」


「黙れ、もじゃもじゃ」

「気のつよか女ん子もよかけんねー」



にやにやと目を細める姿に、思わず平手を食らわせたくなる。


だけど、叩く手が勿体ない。



はぁ。


「ねぇ、アンタには手に余るほどのお綺麗な女の人がいるでしょう?」



「なんばいいよるとね。
こげん愛しとるとに、他に女げなおるわけなかよ?」



よく言うわ。

一週間、連れてる女毎日違うくせに。









「惚れとるとは、ただ1人だけバイ」


慣れた手つきで髪に触れ、ゆっくりと近づいてくる顔から

「あほ」


私はするりとすり抜けた。













貴方の囁く、甘い罠。


心が揺れるたび、
私は何とか踏みとどまる。


だって、



その言葉に溺れたとき

それは始まりではなく、
終わりだから。


End.
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