そして、二人の時間が動き出す(香月ゲン)

学校帰りの土曜の午後。



あ、


土手に見慣れたバイクを見つけた。





「ゲーン!!」


めんどくさそうに顔を上げたのはお隣のゲン。
いわゆる幼馴染みだ。


「何やってんの?」

私はそろそろとゲンの所まで降りていった。


「見てわかんねーのか?昼寝だよ」
「こんなトコで?」
「だって気持ちいーじゃねーかここ」


「うん、まあ」


寝ころぶゲンの横に立ち、私は空を仰いだ。

確かに気持ちいい。





「おい、じょしこーせい」
「ん?」
「お前もうちっと色気のあるパンツはけよ」
「は?」

「見えてるぜ」


頭の下に敷いていた片腕を伸ばし、ゲンがぺらんとスカートに触れる。


っ?!!!



「ピンクとかよー」

「よ、余計なお世話だ!!
つーか見るなバカっ!!」


「見えたんだよっ、おっと」


私が振り下ろしたグーパンチをごろんとよけて、ゲンは身軽に起きあがった。




くやしーっ!!


見られたコトも!

よけられたことも!




「そう怒るなよ」


ぎりぎりと怒る私を見て笑うゲンは、もうバイクの上。



「ねぇ、どこ行くの?」
「帰る」
「じゃあ乗せてってよ―」
「ダメ」

「けーちー」

頬を膨らませながら私も土手に上がる。



「そんなみじけースカート履いてる時に乗せれるか。
パンツ見えるだろーが」
「いいよ、どうせもうゲンに見られたんだから」
「バカ!オレは見てもいーの!でも他のヤツはダメ!!」
「何で?」
「何ででも」
「意味分かんない」


「…意味、知りてー?」



一瞬、ゲンの目が真剣になった気がした。


「うん」


くいくいっと手招きされて、ゲンに近づく。


「何?」

ゲンの片手がすっと伸びて、グイッと更に引き寄せられた。


驚いたのは次の瞬間で。


私の唇に、
柔らかなものが重なった。


それはほんの数秒。



「…え?」

目の前のゲンの顔に、思わず声が漏れる。



「意味分かれ」

「…え?!」
「…そういうことだ」


ゲンはじゃあな、っと前を向き、大きくエンジンを吹かした。


その横顔が、少しだけ赤い気がした。





走り去るゲンの後ろ姿を見ながら、そっと唇に触れてみる。


“私もだよ”

ってのは、いつ教えてやろうか。




そして、
二人の時間が動き出す。

End.
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