Happy New Year(桐島ヒロミ)

年が明けたばかりの近所の小さな神社。
吐く息が真っ白なほど寒く、まだ人はまばら。

昔から初詣はここに来る。
去年までは二人で、
ヒロミがいない今年は、一人で。


お願い事は、それでも変わらずヒロミのコト。



“ヒロミが元気でいますように、あと、浮気しませんように!”


「何を一生懸命お願いしてんだよ」


!!


振り向くと、さもずっと一緒にいたかのようにヒロミが立っていた。


「いつ帰ってきたの?」
「たった今。お前はここだろうと思ってさ、」
「帰ってくるなら教えてくれればいいのに」

本当は嬉しくて飛びつきたい気持ちを、なんとか押し止める。
私ばかりが好きみたいで、なんとなく悔しい。


「で?何お願いしたんだ?」


「ヒロミが浮気しませんように」

「ははは、ひでーお願いだな。そんなこと神様に頼むなよ」
「半年もほっとかれたら、願いたくもなるわよ」

「わりーわりー、とりあえず、先にオレもお参りするからさ。ちょっと待ってろよ」


お賽銭を投げ入れ、柏手を打つ後ろ姿に、尖らせていた私の唇はとっくに緩んでしまい
どれだけ離れても、やっぱり好きだと思う気持ちは変わらない。


長々と手を合わせていたヒロミが、ようやく一礼して振り向いた。


「長かったけど、ヒロミこそ何お願いしたのよ?」

「今から起こることが上手くいきますように、ってな」
「今から?ライブか何かあるの?」


会えたと思ったら、もう行ってしまうのだろうか・・・


目の前まで近づいたヒロミが、そっと微笑んだ。

「なに?」

「結婚しよーぜ?」
「・・・は?」
「あ、違うな、今のナシな。
オレと、結婚してください」

「オレだって会えねーのイヤだし、浮気だって心配するし。
お前と、これからもずっと一緒にいたい」

「それこそ神様にお願いするようなこと?」
「当たり前だろ。絶対成功させたいことは、何でもこの神社で叶えて貰ったんだ」


ー“ヒロミのお嫁さんになれますように。”ー

私がそれをここでお願いしたのは、遥か子供の頃。


自信たっぷりに笑う顔は、
もう、私の返事を確信している。




Happy New Year.

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