彼女には敵わない(柳臣次)

結局、もそりとホタルが起き上がったのは朝方の4時過ぎだった。

「よお、起きたかお姫さん」
「ん」

掛けておいたジャケットに気が付き、ありがとうと手渡すと、そのままベッドに腰かけた状態で周りを見回す。

「みんな潰れてるじゃん」
「お前が言うな」

ふふっと笑うその顔に一気に気が抜けて、流石のオレも眠気を感じた。

「帰るぞ」
「今から?みんな起こさなくていいの?」

「起きるわけねーだろ」

諦めたようにそう答えた甲斐からは、むしろ、仲間への思いやりを感じた。




じゃあなと甲斐に声をかけ、まだ暗い中を連れ立って歩きだす。

足取りもしっかりして、どうやらすっかり酒は抜けたらしい。



「お前な、もう少し考えて飲めよ。男の家で潰れるまで飲むな」
「えー?全然大丈夫だったでしょ?脱いでもないし」
「は?!お前脱ぐの?!」
「たまに?」

オイオイ、信之介より質がわりぃーだろ、

「もう絶対アイツらと飲むなよ」
「えー?楽しいのに」
「アイツらも男だぞ?」
「じゃあ柳が見張っててよ」
「あのなー」

疲れて、その先をいう気力もない。

「柳さ、これからどうするの?」
「どうするって、送って帰ったら寝る、休みだしよ」

「あのさ」
「何だ?」

「柳ん家、行っちゃダメ?」


足が止まり、聞き間違いかと思わずホタルの方をみると、俯いた顔が見えた。

言葉が直ぐに出てこなくて、ホタルの酔いが残っているのか、はたまたオレが実は自覚ないまま酔っているのか。
何も言えないまま思案している間に「ダメ?」と、顔を上げられた。

どうやら、聞き間違いでは無さそうだ……


「あのな、この状況でオレん家に来るって、その、つまりアレだぞ?」
「分かってるよ。バカじゃないんだから」

いや、分かってねーだろ・・・

「襲って下さいって、言ってるようなもんなんだぞ?」

回りくどい言い方をしても無駄だと思い、はっきりと念を押す。

「だからそう言ってるんじゃん」

暗がりで口を尖らせて、だけど恥ずかしさから顔を赤らめているのも、なんとなく分かって、
思わず、ほんの軽く、唇に触れるだけのキスをしてしまう。

だが、これ以上はまずいと、ありったけの理性で距離をとる。


「とりあえず、今日は帰れ。で、お前の気持ちが変わらなかったら」
「変わるわけないじゃん、私がいつから好きだと思ってんのよ」

折角かき集めた理性は、今度はホタルから押し付けられた唇で吹っ飛んで。
やれやれ、これでもオレは精一杯我慢したのにな、と自分を慰める。
だけどもう、男の性としては、この目の前の愛しい女を抱きしめるしかないのだ。

「お前こそ、オレがいつから惚れてると思ってるんだよ」

ホタルの耳元でささやいたその言葉は、情けなくも自分自身に染み渡る。

はぁ、

「人が折角我慢したのに、後でやっぱりナシはないからな?」
「柳こそ。ナシだよ?」

ふふっ、と腕の中で極上の笑みを見せるホタルに、

結局、オレはこいつには敵わないのだと思い知る。


End.
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