彼女には敵わない(柳臣次)

甲斐は、全部分かっているんだろう。
なんでオレがここにいるのかも、酔えないのかも。

タバコを手にすると、とっくにカラになっていて、誰のかは知らないが、その辺に転がってたセブンスターの箱から一本抜いた。

それにしても、

「汚ねーな」
「まったくだ」

散乱した空き缶、一杯になった灰皿。
明日、またこれを甲斐が元通りにするべく片付けるのだろう。

「このまま朝までいるのか?」

甲斐の問いかけは、オレがというより、ホタルをどうするか、という意味で、出来ればこいつらと一緒の朝帰りは避けたいところだ。

「起きてくれたら有難いんだけどな」

と、甲斐と二人だけという安堵感から、思わず気を抜いた返事をしてしまう。


「ん」

ホタルからが声が漏れるたびに、後ろを振り返り、その寝顔を確認する。
なんとなく、甲斐にも見せたくなくて、そこから動けずにいるのも、目の前の幼友達にはきっとバレているんだろう。

「言やーいのに」
「簡単に言うなよ」

お互いが吐き出した煙を眺めるでもなく、そんな会話が交わされる。


「誰も知らねーだろうな、こんな柳臣次」

くつくつと笑う甲斐に、オレは何も言えないまま、ぬるくなった缶ビールを流し込んだ。

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