彼女には敵わない(柳臣次)

なぜここにオレがいるのか、そしてホタルがいるのか。

だいぶ飲んだ筈なのに、全く酔えないのは、もうすでに出来上がっているのに、大丈夫だと、ヘラヘラ笑っている目の前のホタルのせいだということは、もう諦めに似た境地で理解している。

一次会で帰れとあれほど言ったのに、甲斐の部屋で飲みなおすという玄場や源次達に交じって、鼻歌を歌いながらついて行く姿を見てしまえば、帰りかけたオレの足も向きを変えざるをえなかった。

何度も来たことがあるその部屋は、持ち主の性格をあらわすように片付いているのだが、大の男が5人も6人も入ると、流石に狭い。
ホタルはというと、オレの心配をよそに寄って来たコンビニで買った缶チューハイを飲みながら仲間の話に笑っている。

大体今日こそ平和な方だが、みんな酒癖がいいとはお世辞にも言えない。特に信之介は酔うとキス魔で、この間も酔っぱらって源次にキスしたのを見てしまった。
お互い覚えてねーから、敢えて言わないが、忘れられないオレとしちゃ、ちょっとしたトラウマだ。

玄場、源次、信之介と、一人一人潰れて寝転がっていく中で、もう、眠ると、ようやくホタルの頭が揺れだした時には、心底ほっとした。
キョロキョロと回りを見回し、スペースがないと分かると、オレの背にあるベッドによじ登って、そのままクタリと目を閉じた。
だが安心したのもつかの間、今度はショートパンツから無防備に晒された足なんてものがあり、全くいい加減にしてくれと、着ていたジャケットを掛ける羽目になる。

ハァ、と思わず出したため息も野郎どものイビキに消され、どっと疲れがでる。

そんな一通りの様子を、部屋の主だけがタバコを吸いながらひっそりと笑って見ていた。
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