あなたに捧げる想い(複数)

「いや―お疲れさま」

上がったのは7時で、ひっきりなしに入る客に店長は上機嫌だった。



「瀬奈ちゃんありがとね―」


「お疲れさまです」

ほんと疲れた、と私は店を出た。
精神的にも肉体的にもくたくただ。




「寒っ」

一歩外に出ると、当たり前だけどもう真っ暗な夜で
あ―あ…私のイブが…と、またため息が出た。


………

周りを見るとカップルだらけ。



虚しくなって帰ろうとしたとき


「終わったか?」

と、声が聞こえた。


え…


「柳?!」

声の方を見ると、電柱の影で柳がタバコを吹かしていた。

「どうしたの?!」

私は心底驚いた。



「どうしたも何もお前が上がるの待ってたんだ」
「いつから?!」
「一時間くらい前から」
「うそ?!寒かったでしょ?!」

「いや、それより面白かった」
「何が?」
「お前のバイトしてるとこ」
「見てたの?!」

ああっと柳は笑った。





「バイト、上がったんだろ?」
「うん、まあ」

柳の言葉に私が頷くと、

「じゃあ行くか」

と、柳は私に背を向けて歩き出した。



「行くって何処に?」

柳の広い背中に向かって尋ねた。


「まずはメシだな。腹へってんだ」
「柳?」

「その後は、イルミネーションでも見るか?」


立ち止まり振り返った柳が私に手をさしのべて

「イブはまだ終わっちゃいねーだろ?」


そう言った。



泣きそうなほど嬉しくて、
うん、っと私は柳に駆けよった。




差し出された柳の手をそっと取る、


その瞬間、私たちのイブは始まった。




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