それは未来のために(柳臣次)

「数学の答えは一つしかないんだ。分かりやすいじゃね―か」


柳はそう言って近くにあったペンで問題を解き始めた。


スラスラとペンを動かす柳を見て好誠が聞いた。

「お前学校行ってね―よな?」

「ああ」

「何で分かるの?」

「独学」

………スゴっ





「ほら出来たぞ、今から説明する」


ポンポンっとソファーの横を叩かれて
私はそこに腰を下ろした。


「問い一はこの公式だ」


いいか、と、柳は説明し始めた。

ゆっくりと丁寧に、柳は教えるのが上手い。
だけど私は柳のきれいな指ばかり見てしまう。


気づくと、いつの間にか好誠はいなくなっていた。



「分かったような、分からないような…」

「はぁー…こんな問題、公式に当てはめりゃ解けるだろう」

うぅ…


「あーこのままじゃ留年しちゃうよ!!」


柳はゆっくりとタバコに手を伸ばした。

「ま、オレは気長に待つさ」

え?


「待つって何を?」
「ん、お前の卒業。」
「何で?」



すぐ隣にある柳の顔が、そっと耳元に近づいた。

それだけで、私はドキドキする。


「学生結婚は、無理だろう?」


………


「頑張って卒業するか?」

コクコク。

「じゃあ追試がんばらねーとな」

コクコク。

「んじゃあ勉強するか?」

コクン。



ぽんっ、と柳が頭に手を載せて

「良い子だ」

そう言ってくれたとき


顔の赤みが、遅れてついてきた。






(ええ、そりゃあ必死に猛勉強しましたよ。
私の人生がかかってますからね!)
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