それは未来のために(柳臣次)

穏やかな午後、それは突然の出来事―


バンっと勢いよくブライアンの扉が開いて


「柳ぃ―」

半泣きで入ってきたのは瀬奈だった。


「どうした?」

近づいてきた瀬奈にそう尋ねると
手に握りしめていた紙―もうすでにくしゃくしゃだ―をヒラリと垂らして見せた。


「なんだソレ」

横にいた好誠が身を乗り出して手にする。

見るとそれは数学の答案用紙。




((2点…))



右上に赤いペンで大きく書かれた数字に好誠と二人言葉を失う。


「なあ瀬奈、一応聞くがコレ何点満点だ?」

呆れたように聞いた好誠を

「うるさい!!」

と睨み付け

「柳ぃ~追試決定だよ!どうしよう?!」

と、瀬奈はテ―ブルにうつぶした。



ハァ―…
だからテスト中はここに来るなって言ったんだ。


オレは心で深くため息をついた。



「それで、追試の範囲分かってんのか?」
「ん、コレと同じ」

瀬奈は好誠から答案用紙を奪い返した。


「じゃあ楽勝だろ?分かってんだから」
「簡単に言わないでよ好誠!暗記するわけにもいかないし、結局解けなきゃ意味ないんだよ?」

そしてまた「柳ぃ―」と半べそだ。


「教科書は?」

仕方なくそう聞いたらガサゴソと鞄をあさり、はい、と手渡してきた。


それをぺらぺらとめくっていると

分かるのか?と好誠がよこで聞く。

「数学なんてのはそもそも教科書に答えが載ってるだろうが」


好誠と瀬奈は意味が分からないと顔を見合わせている。


「ねぇ、答えなんて載ってないよ?載ってたら苦労しないもん」

顔を寄せて覗き込んできた瀬奈はそう言った。


「いや…ああこれだな」


オレが開いたのは公式が載っているページ。

「数学の答えは一つしかないんだ。分かりやすいじゃね―か」
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