雪-天使がこぼした涙―(我妻涼)
《雪、か》
暖房も入れていない寒々しい部屋。
窓辺に寄りかかりタバコに火を付けて、ただ天から舞い落ちるそれを見ていた。
積もればいい。
積もって全てを覆い隠せばいい。
途切れることなく降る雪、
ふいに、
ある感情が沸き上がった。
それは時々、無防備なオレを襲う。
………
オレはゆっくりと紫煙を吐き、じっと静かにその感情が去るのを待った。
この静寂の中では雪の降る音でさえ聞こえてきそうだ。
だが、
「ピンポーン」
突然鳴らされたベルに、その世界は壊された。
………
この部屋の存在を知っているのは、一人だけ。
窓辺を離れ、オレはゆっくりとその音に向かった。
二度目が鳴ることは決してない。
鳴ることはない、が、
あいつは絶対にそこから動かない。
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