雪-天使がこぼした涙―(我妻涼)
私がリョウに出会ったとき、
彼はもう声を失っていた。
だから私は、
彼の声を聞いたことがない。
―だけど…
歩きながら上を向く。
ふわふわとした綿雪が空一面から舞い降りてくる。
きっと今夜は積もるだろう。
ポケットから手を出して、雪を受け止めてみる。
ゆっくりと羽のように舞い降りたそれは、手のひらにのった瞬間、私の体温で消えた。
…リョウみたい。
暗い闇の世界で、
その両手を真っ赤に染めながらも
雪のように真っ白で純粋な男。
いつも思う。
リョウは、確かにそこにいるのに、
触れると消えてしまいそうだ。
雪はやむことなく降り続き、
大きな扉の前に着いたときには、すでに全身が冷え切っていた。
そして私は、かじかむ指でベルを押す。
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