流れ行くもの(坊屋春道)
『大丈夫か?』
そう心配して電話をくれたのは、
東京で夢を追ってるヒロミだった。
「んー、たぶん」
『………。』
「うそうそ、大丈夫だよ。心配しないで」
『…止めなかったのか?』
「……止めて、聞くようなヤツじゃないじゃん」
『………』
私は青く澄み渡った空を見上げた。
「雲」
『え?』
「だから、く、も。そっちは見えない?」
私の目には限りなく白い雲がうつる。
「春道はさ、雲みたいなひとだから。ふわふわ行っちゃうんだよ。
同じとこにはいられないんだ」
『サキ』
「私は、大丈夫だよ」
だって、
またな、って言ってたから。
春道はウソはつかないから。
約束は守るから。
だから、いつかまた会える。
たとえどんなに形が変わっても、
今もこの広い空にいるから。
いつかどこかで
きっと会える。
目を細めてもう一度空を見上げる。
眩しいのは青い空よりも、
そこを悠々と流れる、真っ白な雲だった。
End.