星に願いを(武田好誠)

「せっかくの七夕なのにねぇ」

帰り道、曇り空を見上げてそう呟く、

「七夕?」

そう言って
好誠もつられて暗い夜空を見上げた。

「ああ、そういや今夜だな」





「曇ってて星が見えないけど、きっと会えてるよね?」

「織姫と彦星か」

「だって一年に一回だけなんだよ?」

私だったら耐えられない。

「会えないことも辛いだろうが、また離されるのも辛いよな」


「…うん」



あの角を曲がったら、私も好誠に別れを告げなきゃいけない。
“じゃあ、またね。”と、
たとえまた明日会えると分かっていても 、好誠と別れるのは辛い。


だから角に着いたら立ち止まってしまう。
そのセリフを言いたくなくて、別れを惜しんでしまう。
もっと一緒にいたい…
見えない星を探して空を見る。



好誠がゆっくりと、肺を満たした紫煙を吐き出す。

「なあ」

トンっと、灰を指で落としながら私を見た。

「別々の場所に帰るのはやめね―か?」

「え?」

「一緒に暮らさないか?
“じゃあな”とか“また明日”とかそんなこと言いたくね―んだ。
同じ場所から出かけて、同じ場所に一緒に帰りて―んだ」

「…うん」


私たちは織姫でも彦星でもない。

ゆっくりと手がふれ合い、歩き出す。


昨日までは別々の道を歩いてた、
でも今は同じ道を二人で歩いている。

離ればなれにならないように
しっかりと手を繋いで。





End.
1/1ページ
スキ