『……ん？』

目を開けて違和感を感じた。

いや、違和感を感じたから目を開けたと言った方が正しい。

「キュー？」

『……』

頬を舐められている感覚。

耳元で聞こえる聞いたことのない鳴き声。

そちらに視線をやれば紅い目をした小さな竜が長い首を傾げながら、恋歌を覗き込んでいた。

竜と目を合わせたままゆっくりと起き上がった恋歌は、恐る恐る竜に手を伸ばす。

「キュー」

伸びてきた手に擦り寄るようにして頭を預けてくる竜の姿に自然と恋歌は笑顔になった。

『かわいい…』

しばらく竜を撫でた後、さらなる違和感に気づいた。

『あれ？

どうして…ベッドに？』

そう、恋歌は今ベッドの上にいる。

記憶が確かであれば昨日は遅くまで4人とカードゲームをしていたはずなのだ。

『たしか…

ババ抜きのあとはダウトを教えてもらって…7並べをして…ポーカーも教えてもらって…

あれ？』

ポーカーを教えてもらった後の記憶が全くない。

思い出そうと首を傾げてみるが、思い出せない。

その様子を見ていた竜が心配した様に膝の上に乗って見上げてくる。

『心配してくれてるの？

ありがとう』

竜の頭を撫でてやれば気持ち良さそうに目を閉じる。

一瞬昨日の出来事全てが夢なのではないかと思ったが、着ているTシャツは男物で、ベッドと同じ匂いがする。

それは昨日ずっと笑顔で接してくれた人の匂い。

取り敢えず一度部屋の外に出ようとベッドから出ようとした。

そこにタイミング良く控えめなノックが聞こえた。

八戒「恋歌さん？

起きてますか？」

『あ、はい』

気遣うような声音で扉の向こうから話しかけてきたのは八戒だった。

入っても大丈夫かと言われ、大丈夫ですと返事を返せば扉が開いた。

「キュー」

八戒「ジープ

助かりました、ありがとうございます」

先程まで恋歌の側にいた竜が八戒の肩に止まり、頭を撫でられている。

『あの…その子は八戒さんのペット…ですか？』

八戒「そうですね

一応飼い主ってことになりますね


僕たちが起こしに行くのはちょっとあれかなと思ったんで、頼んだんですよ」

『そうだったんですね…

あ、あの！私…八戒さんのベッドに入らせてもらった記憶がなくて…』

八戒「ああ、すみません

昨日恋歌さんゲームの途中で寝ちゃったんですよ

眠そうだなーとは思ってましたが、急に寝ちゃうとは思わなくて」

その時のことを思い出しているのか、八戒はくすくすと笑っている。

『す、すみません…

ご迷惑をおかけしました…』

八戒「大丈夫ですよ


それより、どうしてここが僕のベッドだってわかったんですか？」

見たところ今目を覚ましたようだし、寝る前の記憶はないと言っていた。

『え、あ…あのこの服とベッドのシーツの匂いが一緒でしたので…』

八戒「に、匂い…ですか？」

『はい…なんというか…安心する匂いがしました』

そう言って軽く微笑む恋歌に八戒も笑顔を返す。

八戒「加齢臭でもしたのかと思いました」

『いえ・・・

安心できたのでゆっくり眠れました

ありがとうございました』

どういたしまして、と返す八戒に手招きをされ一緒に部屋を出る。