本当にキスされるなら恋歌は目を開けていた。

だが村田の唇が触れたのは前髪。

『今のはどういう意味なんだろう…』

前髪を触りながら暫し考えるが答えは見つからない。

こういうことを本人に聞くのも間違っていることもわかっている。

しかしキスしようと考えるなんて、恋歌には理由は一つしか思い浮かばない。

自惚れかもしれない。

でも誰彼構わずそんなことをする人ではないはず。

だったら導き出される答えは…

『わたしなんかのどこがよかったのかな…』

自分を恋愛感情で好きだということ。

でも恋歌には心に決めた人がいる。

何者にも変えられぬ大切な人がいる。

だから…

『ごめんね…』

見て見ぬ振りをするなんてずるいと思う。

だけどそれしかできない。

その想いに応えることはできないのだから。










村「恋歌さーん！

おっはよー！！」

次の日の朝。

昨日の夜のことなどなかったかのようにテンションの高い村田はノックとほぼ同時に入ってきた。

『おはよう

昨日は迷惑かけてごめんね？』

村「いやいや

役得だったよー

しっかし朝から刺激強目だね」

気にしてないという風に手を振り、にこにこ笑ったあと恋歌の服装に気付いた。

『あ、昨日お風呂入らないで寝たから…』

今の恋歌の格好はお風呂上がりだから暑いのか、昨日も着ていた制服もどきだがブレザーは着ておらず第二ボタンまで外れたシャツの上に肩から白いバスタオルをかけている。

下はスカートを穿いているが裸足だ。

なにより少し濡れたままの髪が余計に色気を増しているような気がする。

村「むー、そういう格好はあんまり男には見せない方がいいよー？」

『うん…そうだね…』

てっきり天然な言葉が返ってくると思っていた村田は恋歌の言葉に少し拍子抜けしたようだった。

村「ま、返事を待たずに勝手に入ってきた僕が悪いよね

髪を乾かして服着たら朝ごはん食べにおいでよ

みんな待ってるだろうし」

『うん、ありがとう

すぐに行くよ』

村「じゃあ僕は先に行ってるねー」

ひらひらと手を振って部屋から出て行った村田を見送った後、恋歌はシーツが濡れるのも構わずベッドに仰向けに倒れ込んだ。

『大丈夫…

ちゃんと役目は果たすから…』

左手の薬指を見つめながら、自分がここに呼ばれた理由、すべきこと、できることを考える。

会いたい人の元に帰るために。