恋歌が機械の前に立ち、恋歌の正体を知っている白ひげ海賊団、ハートの海賊団、キッド海賊団は静かに恋歌が動くのを見守っている。

他にギャラリーたちは屈強な男たちが挑戦してダメだったのに、恋歌にような小柄な女がクリアできるわけないと、ヤジを飛ばしたり軽い応援をしたりしていたが、ぎろっと白ひげ海賊団とロー、キラーに睨まれた為、あたりがしん、と静まり返った。

『(手触りは金属っぽいけど…)』

ぴん、とでこぴんをすれば、前の機械に”5”という数字が表示された。

『(この力で5点

…てことは)』

ローに教えてもらった通りに親指を外側にして握り拳を作り、右足を引いて腰を少し落とした。

ふぅ、と小さく息をはいてぐるん、と腰を回して機械に拳を叩きつけた。

どごぉん、と今まで聞いた事もないような音が島中に響き渡り、少し島が揺れた。

『(まだ足りないか…)』

ぷらぷらと手を振りながら機械を見ると、10,200点という桁違いの数字が表示されていた。

だが、コインを取り出す事が出来ないという事はまだゲームクリアではないということ。

一応狙って1万点を出せるように力を調節したが、まだ足りないとなればもう少し力を込める必要があるなと、再度拳を握りしめる。

ロー「…1万？」

ペ「…急に、機械がおかしくなった、とかじゃねぇ、よな？」

シ「…ちげぇだろうな」

ぽかんとしたままもう一度拳を握りしめている恋歌を見つめ、その直後にきた先ほどより強い衝撃に足元がふらつき、転んでいる者までいる。

機械の数字を見れば10万を少し超えている。

わけのわからない数字に恋歌の正体を知っている者も、知らない者もざわつき、純粋に応援しているのは白ひげ海賊団のみ。

『(まだだめか…)』

明確に点数を言ってくれればそれに合わせて力加減をするのにと、ため息をついて次はどれぐらい力を込めようかと少し考える。

ロー「…恋歌」

『はい』

もう一度、と拳を握りしめると、少し離れたところからローに声をかけられた。

相変わらずの規格外の力に呆れたような笑みを浮かべて、ため息をついている。

ロー「次の一発で終わらせろ」

『…わかりました』

その言葉に頷いた恋歌は、拳を握る力を強くし、肺の中の空気を全て吐き出すように息をはき、ぐっと息を止めた。






ロー「(カンスト…ってとこか)」

恋歌の拳が機械に当たった瞬間、島が割れたのではないかと思うほどの衝撃が起き、今まで20年間誰もクリアする事が出来なかった機械が壊れ、壊れた表示板に現れている数字は999,999。

盛り上がっている白ひげ海賊団は、恋歌をもみくちゃにし、さすがだと褒めちぎっている。

ペ「ただの…パンチ、だよな？」

シ「そのはず…」

能力を使えば数字は表示されない仕様の為、純粋な力だとはわかっているが、桁違いすぎて故障だったのだと思いたい。

『ローさん』

もみくちゃにされているところから抜けてきた恋歌は、手に持っているコインをローに渡す。

『壊しちゃったんですけど…大丈夫ですかね…』

ロー「はっ、心配するとこそこか…」

粉々に破壊してしまった機械を見て、心配そうにしている恋歌を見て、ローは肩を震わせて笑う。

ロー「手は…大丈夫か？」

機械を殴った小さな右手をすり、と撫でてやれば照れくさそうに大丈夫だと返事をしてくる。

ロー「ありがとな」

『いえ、わたしの方がいつもたくさんもらってますので』

大事そうにコインをポケットにしまい、礼を伝えるとこれぐらいしかできないと笑うだけだった。