切島に倒された男はめそめそと泣きながら切島に支えて立たせてもらっている。

優しい切島は男の話を聞いてやっているが、男の方は左手から何かの注入器を取り出す。


その注入器を首に打ち込み、苦しそうに叫び声を上げ始めた。

切「何してんだ！？

何打った！？おい！

大丈夫かよ！？」

『切島君離れて！』

叫び声が止まったかと思えば、その一瞬後に男の全身から刃が飛び出してきた。

切島は咄嗟に硬化をし、恋歌は片手で刀を抜き最低限防いだが、少しだけかすり傷ができしまった。

『(この刃、切島君の通常の硬度以上の硬さ・・・)』

林間合宿で何度も切りつけた硬さだからよく覚えている。

けれど、個性の圧縮訓練で硬度は上がっていたはずだ。

切「(後ろには一般市民も恋歌先生もいる・・・！

ここで俺が止めなきゃ・・・！


爆豪にも言われた！オールマイトも恋歌先生も強ぇ人はどんな時も絶対に倒れねぇ！！


上げる！！もっと！！

もっとだ！！身も！心も！もっと硬く！！

かためて絶対倒れぬ壁となれ！！)」

『切島君・・・』

切島の現時点での最高硬度の防御で、切島の後ろには刃ひとつ通らなかった。

自分だけに攻撃を集中させて店や後ろに被害がいかないように戦う切島は、最後に男の腹に右拳を叩きこんで吹っ飛ばして勝利を収めた。

切「おらぁあ！！」

吹っ飛ばされて正気に戻ったのか男は薬を打つ前の泣きべそ状態に戻る。

「強くなりたかっただけやねん・・・！！

頼むよ逃がしてよ・・・！

俺は力が欲しかっただけの哀れな人間や！！」

切「ダメだ、先輩と恋歌先生を撃った

気持ちはよくわかるぜ・・・

俺も昔は・・・」

「てめーの話なんぞ知るかボケぇ！！」

『(おお・・・)』

正気に戻ったかと思われたが、切島の隙をついて背中から刃を出して逃げ出した。

切「馬鹿か俺は！！」

『(ま、そこが切島君のいいとこだよね)』

慌てて切島が追いかけるが、普通の人より大きめの足音が聞こえた為、恋歌は追いかける事はしなかった。

フ「遅なってすまんな！」

ファットガムの個性により男は無事に捕らえられ、切島は守った市民に感謝されていた。






切「恋歌先生大丈夫っすか？」

『うん、大丈夫だよ』

切島が心配して駆け寄ってくれるが、怪我は大したことないので笑って言うと安心したような顔をした。

切「誰かから服借りれるか聞いてくるっす」

フ「あれま、えらいセクシーなことなってんな」

『あ、いいよ

コスチュームに着替えたら済む話だし』

切「でも女の人があんまりそうやってしてるのよくないっすよ」

天「よかったらこれ・・・」

コスチュームの入ったケースは警察が見つけて返してくれた為手元にある。

どこかで着替えられればそれでいいと思ったのだが、天喰が自分のマントを脱いで貸してくれたのでそれを受け取って羽織っておく。

『今回私足手まといだったね

切島君、ごめんね』

切「んなことないっす！！

後ろにいてくれたんでなんか勇気づけられました！！」

きらきらしている切島を天喰はまぶしそうな顔をして”太陽・・・”と呟いている。

フ「ちょっといいか」

『はい』

フ「さっきあいつらが撃ったの腕に当たっとったやろ？

同じのにあたった環は個性が使えんようになってるらしい

恋歌先生も使えんか？」

『個性・・・』

じっと見つめてくるファットガムを一度見て、天喰を見て、最後に切島を見た。

『・・・お願いしていい？』

切「あ、そうか

どうぞ！」

ばっと両手を広げた切島は、どんと来いという顔をしている。

「「？？」」

ファットガムは恋歌の個性は知っているが発動方法は知らない、天喰は恋歌の個性自体知らないので不思議そうな顔をしている。

『失礼します』

マントを広げてぎゅっと切島に抱き着けば、ファットガムと天喰が驚いたように目を見開く。

切「(あ・・・しまった・・・

肌、つーか胸！当たってる！！)」

『(んー？

使えない・・・かな？)』

両手を切島の背に回しているため、服の前を押えておらずもともと上半身裸の切島の胸板に恋歌の胸が少しだけ当たる。

切「(轟・・・すまねぇ・・・)」

健全な男子高校生としてどきっとしてしまったことを、心の中で焦凍に謝る。

『ねぇ、どう？』

切「え！？柔らかい・・・じゃなくって！！

多分変化はないと思います・・・」

((柔らかいって・・・))

聞かれている事が個性の話だと気づかず、胸の感想を言ってしまったが、恋歌は気にせずに”そっか”と離れた。

『使えないみたいです』

フ「さ、さよか」

『まぁ・・・私の個性が使えなくなったところで大したことないんですけどね・・・』


フ「・・・・？」

自嘲気味に笑う恋歌に、どういうことなんだろうとファットガムは思ったが、先に警察への報告をしなければならないので、警察に恋歌の個性も使えなくなった話をしに行った。