出会いから出航まで

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がこぉん、という重い扉が閉まる音が鳴りやむと、自分が倒すべき敵であるルスと視線を合わせる。

「まさか自分から一人になってくれるとは

しかも先ほどの声

本物の星の魔女に会えるとは光栄です

ですが…次目覚めたときは、檻の中ですよ」

『(絶対に…勝つって約束した…)』

また眠らせようと銃口を向けてくるルス。

『(出し惜しみはしない!)』

自分より強いとわかっている相手に魔力の温存など考えてはいけないと、自分の周りに数えきれないほどの小さな魔方陣を展開させる。

そこから出てきたのは恋歌が持っているすべての杖。

「これが魔女の戦い方…」

『【我は星々の支配者

我が声を聞いたならば願いを叶えよ】』

「…!」

びしびしと伝わってくるプレッシャー。

星を魅了すると謳われる星の魔女の魔力を乗せた声に、ルスは自然と聞き入ってしまっていたが、はっと我を取り戻し恋歌に向けている銃の引き金を引いた。

『【黄道十二宮 全星解放】』

「は?」

通常の何倍もの濃度の眠り薬を恋歌に撃ちこみ、たしかに命中して足からわずかではあるが血が出ている。

だが、眠る気配はなく部屋全体が宇宙空間のような景色に代わる。

「どうなってる!!」

普通の弾が入った銃を取り出し杖を握っている腕に向かって撃ち、それも命中し足とは比べ物にならない量の血が流れるが、それでも恋歌は倒れない。

『【星天魔法 ゾディアック!】』

恋歌の発動できる最大の魔法をルスに撃ち込み、それは直撃した。

「が…!」

『(マシューより頑丈…!)』

全て直撃した攻撃はルスの足元をふらつかせたが、倒すまでには至らないダメージ。

「てめぇ…うちの大事な資金源にしてやろうと思って手加減してやれば…」

口調がかわったルスは、びぎびぎと筋肉を増幅させ、その筋肉でスーツが引きちぎれていく。

『【黄道十二宮 全星…】

!!』

杖の力を使って魔力の消費を抑えているとはいえ、何度も大技は連発できない。

次で仕留めると、もう一度発動させようとするが、唱え終わる前にルスが急に目の前に現れ、次の瞬間には壁に激突していた。

『(やばい…魔法切れる…)』

突然の事に風の魔法で衝撃を和らげる事も出来なかった恋歌は、全身で衝撃をまともに受けてしまった。

からん、と持っていた杖を落とし、撃たれた腕をおさえてうずくまる。

『(痛い…!怖い…!)』

がたがたと震える身体を奮い立たせようとするが、痛みのせいで立ち上がれない。

ぐっと髪を掴まれて顔を上げさせられると、ルスは不思議そうに首を傾げる。

「あ?急になんだってんだ?」

先ほどまで痛がる素振りも見せなかったはずなのに、今では苦痛の表情を浮かべている。

『(ベポ…ペンギン…シャチ…ヴォルフ…

ロー…)』

ここから逃げてみんなの所に戻りたい。

助けて欲しい。

そんな弱気な想いが心を支配していく。

今までルスの薬が効かなかったのも、銃で撃たれても大丈夫だったのは、魔法で感覚を麻痺させていたから。

ルスと戦う事になるとわかったとき、町で撃たれた薬はまだ持っているだろうと予想できたため、予め戦いの前に蠍座の毒を身体に回していた。

それが切れた今、眠る事より痛みが勝っている為、眠らずにいるが痛みでうまく頭が回らず、声も震えている。

星の魔法は自身の声と魔力を対価にして力を貸してもらう魔法。

震えた声で未熟な恋歌ではおそらく魔法は発動しない。

『(でも…)』

「何だか知らねぇがおとなしくするってんならこれ以上は…あ?」

『(でも…わたしがローに…信じてって言った)』

怪我をしていない方の手で収納魔法で収納していた小型のナイフを取り出すと、まだ抵抗するのかとルスは眉間に皺を寄せた。

『(シャチ、ごめん)』

「…は?」

そのナイフで攻撃するのかと構えたルスだったが、恋歌が切ったのは…ルスが掴んでいる自分の髪だった。

腰までシャチが綺麗に整えてくれていた銀の髪は床に散らばり、肩までの長さになった。

『(魔法が使えたら…それでいい)』

ルスから離れた恋歌は胸の前でナイフを構える。

体術や剣術、砲術などは5人の中で一番弱い。

ルスを相手にそれで勝てるとは思っていない。

恋歌がルスに勝てる可能性があるとすれば、それは魔法のみ。

「はっ、そうこなくちゃな」

腕からの出血も止まっておらず、通常より多い量の薬を体内に入れられており、壁に激突したときに全身を打った。

正直立っているのも精一杯な状況ではあるが、まだ魔力は残っている。

一度大きく深呼吸をして、なるべく声を震わせないようにぐっと喉に力を入れた。
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