次の日の朝、朝食を食べにリビングに降りると、机の上に本が大量に積まれていた。

『（これ…）』

一冊手にとってぱらぱらとページをめくると、昨夜流しつくしたと思っていた涙が流れてくる。

おそらく本を置いた張本人であるヴォルフは、静かに自分で淹れたお茶をすすっている。

「あ？なんだこれ…」

後から降りてきたローも不思議そうに本を手にとって、内容を確認し、恋歌が泣いている理由がわかり、敵わないなとため息をついて椅子に腰掛けた。

「あ、恋歌、ローさんおはよう！」

「まぁ座れって！」

立ったまま涙を流している恋歌を、ペンギンが座らせ、本を丁寧にソファに重ねていく。

「朝飯だ！」

シャチが朝食を運んできて、いつものように朝食を食べ始める。

『ヴォルフっ…！』

「…なんじゃ」

『ありがとう！』

「ふんっ、たまたま…目についただけじゃ

他の者も読めない本はいらんと言うんでな」

照れ隠しの悪態をつくヴォルフが持って帰ってきたのは、あの商船にあった魔女の本。

あの船の商人は魔女を誘き寄せる餌と言っていたが、恋歌にとっては大事な村のみんなの形見。

いつまでも泣いてばかりいられないと、涙を拭って恋歌も朝食を食べ始めた。







「よしっ、今日も可愛いぞ！」

『あ、ありがとう…』

「うっ…」

シャチに髪を整えてもらい、今日は化粧までしてくれた。

可愛いと褒めてくれるシャチに、照れ臭そうにお礼を言うと、苦しそうに心臓を押さえていた。

《どうしたの？》

「さっさと行くぞ」

すたすたと恋歌の手をとって歩いていくローは、自転車に跨り、荷台をぽんとたたいた。

「乗れ」

頷いて荷台に乗り、ローの服を掴めば、自転車が動き出す。

後ろを見れば慌ててついてくる3人が見える。

「恋歌」

3人の慌てぶりを見ながら笑っていると、ローに話しかけられたので、前を向く。

「俺たち以外の前であまり声を出すなよ

変なファンが増えそうだ…」

普通に喋って欲しいとは思うが、仕事中ずっとは見張れない。

事情を知らない者たちから、恋歌が喋れるようになったと思われ、もっとと要求されることが怖い。

それがまた恋歌のトラウマにでもなれば、わずかに話してくれるようになったのも、終わってしまうかもしれない。

『ロー』

「ん？」

『ありがとう』

「…おう」

優しい心遣いにお礼を言って、抱きつくようにお腹に手を回せば、その手にローが手を重ねて軽く握ってくれた。