そして出航の時間。

空は晴れ渡り星々が輝いているのがよく見える。

港には町のほとんどの人間が見送りに出てきていた。

「じゃあ元気でね」

『うん、ランも』

スワロー島を出て初めて出会った魔女との別れはやはり寂しいようで、少し恋歌の元気がないように見えるが、いくら寂しくとも別れなければいけない。

「ほら、みんなにちゃんとお別れを言わないと」

「……」

メアリも見送りに来てくれているが、大きな瞳に涙を溜めて泣き出しそうになるのを我慢しており、涙が零れ落ちないようにぎゅっと自分の服とローゼの服を握り締めている。

『メアリちゃん』

メアリの前に恋歌がしゃがみ、シリウスの前足をメアリの頬に当ててやる。

『お母さんの事、守ってあげてね』

一般人で悪魔の実の能力者であるという事は重荷である事が多い。

これから先も聞きたくないことを聞いてしまう可能性もある。

『ローと、ウィリアムさんに、教えてもらった事、忘れないで』

「…う、んっ」

2人に教えてもらったのは人の為に出来る事。

怪我をした人、心に傷を負った人にメアリが出来る事をしてあげて欲しいと言えば、耐えていた涙をぽろぽろと地面に落としながら何度も頷いて返事を返す。

「…おい、そろそろ行くぞ」

『はい』

泣きじゃくっているメアリにしばらくローが時間をくれていたが、そろそろ出航すると恋歌の肩を叩いた。

「また…！

またここに、来てねっ…！！」

「またね！」

涙を拭う事はせず笑顔で手を振り続けるメアリに全員が手を振り返し、その後ろでラン、ウィリアム、ローゼも手を振っている。

「恋歌ちゃん！」

「「「！！」」」

ポーラータング号に乗り込み、甲板に立つロー以外の4人が大きく手を振っていると、ランが大きな声で恋歌を呼びその直後にランの足元に大きな魔方陣が浮かび上がった。

「会えてうれしかったわ！

わたしの夢を…望みを、諦めないでくれて、ありがとう！！」

ランを中心に足元からツルが伸びていき、近くの木に巻き着いて輝く色とりどりの小さな花を咲かせていく。

その花びらが舞い、恋歌が魅せる幻想的な雰囲気とはまた違う景色に、ハートの海賊団の視線が釘付けになる。

「わたしたち緑の魔女にしか咲かせることのできない花よ

これからのあなたたちの旅が、幸福でありますように」

「すっげー…」

「ああ、魔女ってのはほんとにすげーな…」

こんなに美しい景色を見せる事の出来る魔女がもうほとんどいない事を嘆いてしまいそうになるが、自分たちの仲間にはもっとすごいができる魔女がいる。

『【我は星々の支配者】』

そして、それに応えるように恋歌の足元にも魔方陣が浮かびあがる。

恋歌の声に応え、星々が瞬きはじめ星が降るように星が流れていく。

「これが…星の魔女の力…」

ランも、ウィリアムも、ローゼも、メアリも町の住民たちも、花と空のどちらに視線を向けていいかわからず、きょろきょろと視線を忙しなく動かしているのが見える。

『【我の家族である緑の魔女に祝福を】』

「また、会いましょう…」

もうどんなに望もうと魔女二人の魔法を見る事ができる機会などほとんどない。

「魔女たちが、自分の事を魔女って隠さないで生きられる世界になればいいね…」

ベポの小さな呟きはハートの海賊団の総意。

「…もうしばらくしたら潜水するぞ」

今すぐに潜水しろと言わないのはローも目の前の景色を目に焼き付けているから。

結局、島が見えなくなるまで潜水をすることはなかった。