ローゼの家でメアリとも別れの言葉を交わした後、夕方ごろに船に戻ればまだロー以外の3人は戻ってきていなかった。

『みんなは？』

「物資の調達に行ってる

もうすぐ戻って来るだろ」

帰艦報告をしに船長室へ顔を出すと、ローは机に向かって医学書を読んでいた。

ぱたん、と医学書を閉じて立ち上がると、恋歌の前で立ち止まって恋歌の腕を引いて部屋の中に入れた。

「別れは済ませて来たか？」

扉を閉めソファに座るように促し、その横にローも腰掛ける。

『うん、メアリちゃんには、泣かれちゃった』

「…そうか」

海賊が島の住人、しかも幼女に懐かれて別れを惜しまれるとは、変な海賊だと自嘲気味に笑う。

『きっと、ベポは、もっと泣かれてると、思う』

「そうだな」

その様子が想像できたのか小さく笑う恋歌の頭を引き寄せ自分の肩に乗せた。

『…ランとね、お話してきたの』

「ああ」

『わたし、みんなにまだまだ、甘えてるなって…思い出したの』

ぽつぽつと話を始める恋歌の言葉に耳を傾けながら、引き寄せた頭を撫でてやる。

「それの何が悪いんだ」

『……わたしが、シリウスと契約した時、約束してたの、覚えてる？』

「約束…？」

恋歌とシリウスが契約したとき近くにはいたが、風で細かい契約内容までは聞こえていなかった。

約束の内容を知らないローは続きを促すように膝の上に置かれた恋歌の手を握る。

『”最高の魔女”に、なるって、約束したの』

「最高の魔女…？」

恋歌が”最高の魔女”とはすべての”星”から認められることで、魔力も、声も、容姿ですら星に認めてもらう必要があると伝えた。

「…声はそれ以上に綺麗になんのか」

『…わたしが、この話し方なのは、魔力のコントロールが、うまくないからで、完璧にコントロールが、できるようになったら、普通に話せるように、なるはず

お母さんも、おばあちゃんも、そうだった』

「それでも普通の人間よりは遥かに綺麗な声なんだろ？」

『”最高の魔女”だった、おばあちゃんは、魔法を使ってる時の、わたしよりはるかに、綺麗な声だった』

「(”星”ってのは綺麗なもんが好みってことか

それも人間離れした…)」

すでに恋歌の容姿は、変装をしていなければほとんどの男が振り返ってしまう星の輝きような美しい銀髪、白く滑らかな肌、夜空をそのまま切り取ったかのような大きな黒い瞳、年齢にそぐわないスタイルに加えて、星と”人間”を魅了する声。

ランから聞いた星の魔女の声はこの世界で最も美しいと評されるほどのものになるという話も、ローの心に引っかかっている。

「(そんなもん…どうすりゃいいってんだよ)」

”星”という未知のものから好かれる事で、今ですら敵や警戒すべき相手が多いのに、これ以上どう警戒すればいいのだろうかと、まだ見ぬ未来に大きなため息をついた。

『ごめんね…』

「なにがだ」

ローがため息をついたことで、何か気に障る事を言ってしまったのかと反射的に謝れば、ローは天井に向けていた視線を恋歌に向けた。

『きっと、ちゃんと話せるようになるまで、かなり時間が、かかる、と思う…』

「不便に感じた事ねぇよ」

『…そっか』

どれだけ恋歌が申し訳ないと、甘えていると思っている事でも、仲間たちから文句など出た事はない。

謝る事は仲間たちの優しさを否定する事になると、もうこれ以上は何も言わずにいようと握られている手を裏返し、指を絡めてぎゅっと力を入れて握り合った。

『ロー』

「なんだ」

『…大好き』

「…おれも、愛してる」

”最高の魔女”になるという決意をローに伝え、その決意を受け止めてくれたローが期待していると優しく口づけをしてくれた。