出航の日の朝。

恋歌は1人でランの元を訪れていた。

「そう…寂しくなっちゃうわね」

『うん…』

ランに今夜出航するつもりだと告げると、寂しそうに笑って紅茶を出してくれた。

「寂しいけれど、星の魔女に会えてよかったわ」

『わたしも、他の魔女に会えるって、思ってなかったから、会えて嬉しかった』

「でもね、わたし不思議に思ってたことがあるんだけど」

『なに？』

今のこの時間が2人で話が出来る最後だとわかっているため、ランも気になった事を全て聞いてしまおうと、自分の分の紅茶を準備して隣に腰掛けた。

「星の魔女は美しい声をしているとは聞いていたけど、普通に話せないとは聞いてないのよ

その話し方はなにか理由があるの？」

『…これは、わたしの我儘なの』

「我儘…？」

今さら同じ魔女のランに隠し事をしても仕方ないと、自分がゆっくりと言葉を区切りながらしか話せない理由を説明した。

まだ魔力のコントロールができていないから声を出して話してはいけないと家族に言われたにもかかわらず、村が襲われた時に暴走してしまった事。

それから声を出す事が怖くなった事。

だが、星の導きで出会った恩人と出会い、ローと出会い、ベポと出会い、シャチとペンギンと出会った事で、もう一度声を出す勇気がもらえた事。

声を出さなくても話せるように、全員が手話を覚えてくれた事。

今でもゆっくりとしか話せない事を、何も言わないでいてくれる事。

「そっか

恋歌ちゃんが出会った人たちはみんな素敵な人たちなのね」

『うん

みんな、大事な人…』

改めて話してみると”当たり前”になりつつあった事が、ハートの海賊団の優しさだと気づいた。

「それにしても星の導きかー

わたしも聞いた事があるわ

最高の称号をもらった星の魔女にしか使えないって」

『うん、わたしのおばあちゃんが、そうだったんだ』

「そう…」

”最高の称号”と言っても人数が少ない今の時代の星の魔女の中ではその称号の意味は変わってくる。

『シリウスとね、約束したの

”最高の星の魔女”に、なるって』

「たしか星の魔女の”最高の称号”って…」

『…わかってるよ

でもね、それぐらいじゃないと、ローの傍には、いられない』

魔女の中でも星の魔女は別格で、ランのように星の魔女以外の魔女は魔力の高さで最高の称号を得る事ができる。

過去に興味本位で星の魔女の最高の称号について調べていた時、星の魔女は魔力の高さだけでは最高の称号を得る事はできないのだと知った。

「”すべての星に認められる事”

それが星の魔女最高の称号を得る条件、なのよね？」

『よく知ってるね』

星座の数は全部で88。

大技では力を借りる事が出来るが、個々には力を借りる事ができない事はハートの海賊団にも言っていない。

それに”星”は星座だけではない。

『まだまだ、魔力を増やして、声も綺麗に、ならないと、その称号は、手に入らない』

「…険しい道のりね」

『離れたくない、から』

「それはわたしと一緒ね

わたしにできる事はもうないけれど、お互いにいたい人の傍にいましょう」

『うん』

差し出してくれたランの手を笑顔で握り返した恋歌は、確実に近づいてきている別れに泣きそうになったがそれを耐え、しばらく雑談をした後ウィリアムにも挨拶をして、ローゼの家に向かった。