ローはランの紅茶を一口飲んだ後、しばらく魔女同士で話があるだろうとウィリアムが作業をしている方に黙って行ってしまった。

「…気を遣わせちゃったかしら」

『たぶん、ローにそう言ったら、気まぐれだって、言われるだけだと思う』

「ふふ、言いそうね」

不器用な優しさを見せるローにランが笑って自分の分の紅茶を持って恋歌の横に腰掛けた。

「さっきの話の続きだけど…

魔女である事も魔法を使える事もわたしの誇りだけど、この広い世界でたった一人で生きていく覚悟はできなかった

それはわたしの弱さで…わがままなんだけどね」

その気持ちは恋歌には痛いほど伝わってきた。

最初こそ親しくしていたとしても、”魔女”だとわかれば何をされるかもわからない。

信じた相手に裏切られてしまうのであれば、最初から誰にも正体を明かさずに過ごしていたいと。

しかしこの世界で誰にも正体を知られることなく、簡単に病院にもいけない状態で生きていけるわけがない。

「そう思うとわたしはウィリアムに出会えたことは、わたしの人生一番の幸福だったのかもしれないわね

魔女の事を理解してくれて、お医者様で…無条件に信じられる人…」

『…うん、わたしにとっては、ハートの海賊団が、そうだよ』

「そうね

わたしたち魔女の運の良さもまだまだ捨てたもんじゃないわね」

くすくすと笑う恋歌とランは、少し離れたところで話しているローとウィリアムの背中を見つめた。

「もうわたしは魔女であることを隠さないって決めたわ

まぁそれもこの町の人限定だけど…

もしそれが原因でこの島を出なくちゃいけなくなったときは、ウィリアムがどこまでも着いてきてくれるって約束してくれたの

だからもう怖くないの」

『そっか

良い人だね』

「ええ、緑の魔女のわたしが選んだ人だもの」

『うん』

この広大な海で初めて会えた魔女が幸せであればいいと、相変わらず優しい味のするランの紅茶を飲み干した。





「え、出航は明日？」

「ああ、準備しとけ」

その日一日町の様子を見て回り、海軍の支援もあったおかげで復興は滞りなく進んでいた。

それを確認したローは船に戻った後、すぐに出航すると仲間たちに指示を出した。

「ええー！急すぎるよ！！」

「おれたちがここにいてもできることは少ねぇ

それにしばらくは海軍が頻繁にここに来るって言ってんならおれたちがここにいる必要はねぇ」

海賊に2度襲われた町であり、現在復興中の町の為復興が完了するまでは海軍が物資の補給に訪れたり、パトロールをしてくれることになっていた。

ウィリアムに医学の勉強を教えてもらうためにこの島に訪れたが、ウィリアムが持っていた本はすべて燃えてしまった上に、ローの聞きたいことはすべて聞き終っていた。

そのためもうこれ以上この島にいる必要がないのだ。

「…まぁキャプテンがそう言うなら」

「出航は明日の夜だ」

それだけを言い残し自室に戻って行ったローの言葉に従うために、ペンギンとシャチは必要な物資の確認、ベポは進路の確認の為にそれぞれの仕事に戻っていく。

「どうした」

『ううん、なんでもないよ』

足元にいたシリウスが何かを考えている様子の恋歌に声をかけると、すぐに笑顔を作ってシリウスを抱き上げた。

『明日出航なら、お別れを、言いに行かないと』

「…そうだな」