しばらく白く輝く花をぼーっと見つめたレヴルは、急に意識を失ってしまった。

「…これでいいんだな」

「ええ、これはわたしの弱さが招いたことだから…」

大木に手を添えたまま俯いているランの肩をウィリアムが引き寄せると、擦り寄るように胸に顔を埋める。

「わたしが最初から魔法を使っていれば…町も、店もこんな風にはならなかったのよ

だから…あなたには悪いけど、すべてを忘れてもらうわ

ウィリアムも…ごめんなさい…」

「いや、おまえがどんな選択をしてもおれはお前の傍を離れない

謝る必要はない」

「ありがとう」

白く輝く花びらが舞う中、泣きそうな顔をしたランをウィリアムが抱きしめると、人為的と思えるほどの強風が起き、ランが咲かせた花がその風ですべて散ってしまった。

「…恋歌ちゃん」

『…わたしは、ランが使う魔法を、信じてるよ』

ちらりと向けられたランの視線に、恋歌が笑って返すとランも決意したように一つ頷いた。

頷いた直後レヴルの身体の正面に魔方陣を出し、ランは小さく息を吸い込んだ。







「んで、どうなったんだ？」

ランの魔法発動後、誰かが呼んだ海軍が到着してしまったため、ハートの海賊団は街の住人達に避難所の近くに隠れ家を準備しされ、海軍が海賊たちを連れて行くまで隠れていなければいけなくなった。

5人で手当てをし合いながら海軍がいなくなったと連絡が来るのを待っている。

外に出ていた恋歌、ロー、ラン、ウィリアムが戻ってきた後、最後まで抵抗していたレヴルは意識を失っており、街の住人達がこの事件首謀者だと海軍に伝え連れて行かれたらしい。

ただ、連れて行かれるレヴルは目の焦点があっておらず、虚ろな表情で何の抵抗もすることなく連行されて行ったと街の住人達が言っていた。

『ランの魔法で、レヴルの記憶を、消したんだって』

「記憶を？」

恋歌に腕に包帯を巻いてもらいながらペンギンが首を傾げると、恋歌が目を合わせて頷いた。

あの時に出した白い花は記憶の混濁をさせてしまう効能があるらしく、その花の効能をランの魔法で高め、レヴルの記憶を”消した”。

『ランの事も、この町の事も、全部忘れたから、おとなしく、連れて行かれたんだと思う』

「はー…やっぱ魔女ってすげーな…」

『…ランは、そう思ってない、と、思う…』

「え？なんで？」

「旦那が医者だから、だろ」

少し悲しそうな表情をしている恋歌に、シャチとペンギンが首を傾げると、どう答えようか悩んでいる恋歌の手が止まってしまったため、横からローが手と口を挟んできた。

「いってぇ…！！」

「お前らも恋歌の…魔女の性格わかってんだろ

頑固で、気にしなくていい事まで気にしてする種族だってな」

恋歌が巻いていた包帯をぎゅっと力強く結んだローは、ペンギンが涙目になっているのを無視して話を続ける。

「どうせあいつの記憶を消した事で医者である自分の旦那に申し訳ねぇとか思ってんだろ

ベポ、包帯もう一つ寄越せ」

『……』

「アイアイ」

「痛い痛い痛い！！」

今度はシャチの腕を掴んでまたきつく包帯を巻いていくが、騒ぐシャチを気にせず手早く包帯を巻いていく。

「”魔女”の事を”魔女”だと理解した上で傍にいるんだ

自分を守るために魔法を使って、傍にいる奴が離れるわけねぇだろ」

淡々と話すローは、その言葉を恋歌にも向けて話している。

恋歌が危険な時に、恋人であるローが医者だからと、命を奪うなとは言わない。

その所為で恋歌の命が危ないのであれば、相手の命を奪ってしまう事があっても、海賊である以上は仕方のない事。

今回魔法で他人を傷つける事を躊躇っていたのはランだったが、同じ状況になった時恋歌も魔法を使う事を躊躇っていただろう。

「自分に害がある相手に対してまで遠慮をするな

おれに…おれたちにも遠慮をする必要はねぇ、いいな？」

『…うん』

最後はきちんと恋歌の目を見て話しを終え、困ったように笑う恋歌に不服そうな顔をしたローだったが、すぐに根っこの部分は変わらないだろうと、この話は終わりだと包帯を巻き終えたシャチの腕を軽く叩いた。