「……」

ぴたっと、振り下ろした鬼哭をマリーに当たる直前で止めたローは、涙を流しながら気を失ったマリーを一瞥し、自分に縋りつくように服を握り締めて腕の中におさまっている恋歌を見下ろした。

「恋歌…怪我は…」

ウィリアムが施した治療を見て、無傷でないことはわかっている。

ロー自身も無傷では勝てなかったこともあり、仲間たちも少なからず傷を負っているのだろうと少し心配になったが、目の前の恋歌の魔力不足はすぐに解消させてやる事が出来る。

「目、閉じろ」

『…うん』

頬を撫でて顔を上げてやれば、素直に目を閉じてローからのキスを待っている姿に、まだ戦いの途中だということは理解しているが、どきどきと心臓の鼓動が速くなるのがわかる。

『んっ…ん…』

理性を保つためにちゅ、ちゅ、と音を立てて軽く唇を合わせるだけのキスを落していく。

それが物足りないのかもっとと強請るように服を引っ張れば、唇を離されて最後に頬に軽く唇を落された。

『ロー…』

「さっさと終わらせてからだ

終わったら…恋歌の望む事をしてやる」

『…うん』

目の中の魔方陣が消えた事を確認して、身体を離せば恋歌はぺちぺちと頬を叩いて自分に気合いを入れ直している。

「あいつらのところに行くぞ」

船長の男はローが倒したが、ペンギンたちの方に置いてきた男がどうなったのかはわからない。

ローの言葉に頷いた恋歌は、箒を取り出してローにも乗るようにと促した。






上空から町を見下ろしたがもう戦闘音が聞こえる場所は少なく、船長が倒されたことで士気が下がったのだろう。

「おい、お前ら」

「「「キャプテン！！恋歌！！」」」

地べたに疲れたように倒れ込んでいる3人を見つけ、先にローが箒から飛び降り3人の前に姿を見せると、嬉しそうにぱぁっと顔を輝かせた。

仲間たちも傷だらけではあるが無事な様子に、小さく息をはいた。

近くに倒れている男を一瞥し、気を失っている事を確認すると、ぐるりと街を見渡しす。

「町の奴らの姿が見えねぇな」

「あ、それはランたちが避難場所があるからそこに向かうって言ってたよ」

「その場所はどこに…」

「「「………」」」

町の人たちはどこに避難をしているのだろうとローが聞こうとした瞬間、少し遠くでばきばきという音を立てて大木が急激に成長していくのが見えた。

「あんなことできるのって…」

「ああ…ラン、だけだよな」

普通の人間が植物を急激に成長させる事などできるはずもない。

「おい、行くぞ」

だが、ランが魔法を使わなければいけない状況ということは、何かあったのかもしれないとローの背中に続いて4人も走り出した。