「…そんなに第2夫人が気に入らなかったかい？」

硝煙の上がっている銃を持って海賊の男の後ろから現れたのは、この騒ぎの原因であるレヴル。

攻撃された衝撃で展開していた星空は消えてしまい、ベポにかけていた魔法も解けてしまった。

ぎりぎりと男を力で押さえているベポは、恋歌に駆け寄りたい衝動を抑え、まずは男を倒してしまおうと得意の体術で攻撃を仕掛ける。

「まったく…

マナーがなってないやつらだとは思ってたけど、まさか海賊だったとはね」

近くで男とベポが戦っている音を聞きながら、今度は銃口を恋歌の頭に向けてくる。

『(持ってる武器は銃だけか…)』

「さぁ、ラン

君がおとなしく僕についてくるって言うならそこの海賊もここから連れて帰るし、銃もこれ以上使わない」

「……」

ぐっと唇を噛み締めてなんと答えるのが正解なのかと思考を巡らせるが、一番いい解決方法は自分がおとなしくレヴルの元に行く事。

「…海賊まで使うような卑怯なお前にランを渡すものか」

「ああ、そう言えばまだ君っていう障害があったんだった」

今度はランを庇うように守っているウィリアムにレヴルが銃口を向けた。

『【動くな】』

「…は？」

だが、恋歌に向いていた銃口がウィリアムに向いたという事は、恋歌を警戒している人物がいなくなったという事。

一瞬の隙をついてレヴルを地面に引き倒し、首元に刃を当て魔法で身動きを取れないようにする。

『わたしだって、海賊

あなたが、先に倒すべきは、わたしだよ』

「…ちっ」

頭ははっきりしているのに身体が金縛りにあったようにぴくりとも動かせないレヴルは、唯一動かせる眼球を動かしてベポと戦っている男に視線を向けた。

「おい！！高い金を払ってやってんだ！！

仕事をしろ！！」

「はいはい、わかりました、よっと！！」

「！！」

『ベポ！！』

ベポと互角の戦いをしているように見えていた男が急にベポを突き飛ばし、燃え盛るランの喫茶店の方に蹴り飛ばした。

その衝撃で建物が完全に崩れ、ベポが生き埋め状態になってしまったが、誰も助けに向かう事ができない。

『…くっ』

「恋歌ちゃん！」

ベポに気を取られた一瞬後、男がレヴルの上に跨っている恋歌を蹴り飛ばし、それを峰で受けたが吹き飛ばされ近くの建物に激突した。

『なんなの、あの人…

【スコーピオン】』

激突した背中が痛み、身体の上に落ちてきた瓦礫を退けて蠍座の毒で痛みを紛らわせた。

『ベポも、助けないと…！』

「先にあの男を倒すぞ」

先にベポを助けたいがそんな事を許してくれる相手ではない。

「ベポ！！ベポ！！」

「メアリ！ダメよ！」

瓦礫の下敷きになっているベポを助けようとメアリが泣きながら店だった場所に行こうとするが、それをローゼが必死に止めている。

『…？

シリウス、何か言った？』

「え、いや何も言ってないぞ」

『？？』

魔法を使おうと息を吸いこんだ直後、頭に直接響くような声が聞こえたが、シリウスの声ではなかった。

『…そっか』

「？

なんだ」

だが、もう一度頭の中に響いた声が誰のものかわかり、悲しそうに笑った恋歌は身体強化の魔法をかけて男に向かって刀を振り下ろした。