まだ立ち上がる気配のない男に警戒を解くことができないのは、殺気がさきほどより増しているから。

視線すら合っていないはずなのに、重苦しい空気に冷や汗が頬をつたう。

だが、汗が流れた原因はそれだけではない。

つい先ほどまでいたランの喫茶店が燃えており、その所為で温度が上がっているのも原因の一つ。

『(店の中にいるようにってローが言ってたから、なんでメアリちゃんの悲鳴がベポに聞こえたのか疑問だったけど…

ランの店を燃やしたんだ…)』

レヴルの指示なのか、この男が勝手にしたことなのかはわからないが、卑怯な手を使う海賊にも、レヴルにも怒りが込み上がってくる。

「恋歌ちゃん…」

心配そうにランが名前を呼んでくれるが、それに反応することも返事をすることもできない。

「ってぇ…な…

何だってんだよ…」

仰向けに倒れていた男が起き上り、攻撃された頬を擦りながらぎろりと恋歌を睨みつけた。

その殺意のこもった視線に、恋歌がびくりと身体を揺らしたが、気圧されるわけにはいかないと、視線を逸らす事はしない。

「へぇ…どんな野郎が攻撃してきたのかと思ったが…

おれは後ろの女よりあんたの方が好みだ」

にやりと笑って唇を舐めた男の気持ちの悪い空気に飲まれないうちに、魔法を使うために息を吸い込んだ。

『【我は星々の支配者】』

「…んだこれ」

早く勝負をつけた方がいいと、強めの魔法を発動させるために辺りを宇宙空間に変える。

「恋歌、おれのことは気にしないで撃って！」

恋歌の魔法を確実に当てる為に、ベポが男に向かって行った。

「ちっ、なんだこの白クマ…！」

ベポに当てる事はしたくないが、確実に当てる為にはその方がいいと、恋歌も頷いて返す。

『【星天魔法 ジェミニ・メテオ】！』

「…やった！」

なるべくベポに当たらないタイミングを狙って魔法を使えば、男に見事直撃しぶすぶすと身体から焦げたような黒煙が上がる。

「…倒れないね」

男はピクリとも動かないが、倒れる様子はなく嫌な沈黙が流れる。

まだ倒せていないとわかるのは男の殺気がおさまっていないから。

「恋歌、もう一発ぐらい当てとけ

あと一発ぐらいなら魔力もまだ残る」

『わかった

ベポ、もう一回当てる』

「アイアイ！」

『(次は、必ず倒れさせる…)

【黄道十二宮 全星解放】』

ぐるぐると星座たちが回りはじめ、ぴたっと止まった後、目を閉じなければいけないほどの輝きがあたりを白く照らす。

「このっ…下手にでてりゃ…調子に乗りやがって…！」

「行かせるか！！」

「邪魔すんな…！」

この不思議な空間を作り出しているのが恋歌だと気づき、意識を取り戻した男が恋歌に殴りかかろうとしたが、ベポがそれを止め力で男を押し返す。

『【我が声を聞いたならば願いを叶えよ

星天魔法 ゾディ…】

！？』

「！！

恋歌！！」

「「「！！」」」

もうあとは魔法を発動させるだけだった。

だが、それを遮ったのは一発の銃声。

「恋歌ちゃん！！」

『(どこから…)』

ふらりと倒れそうになる身体をシリウスで支え、おそらく銃弾がかすめたであろう太ももに視線を落とす。