『ベポは、どこだろう…』

「あの娘の声が聞こえたってことは、一度店に向かった方がいいな

あいつらが店から自主的に出たとも考えられねぇ」

ベポの元に向かうと言っても居場所がわからなかったが、シリウスに言われたことに頷き、ひとまずランの店に向かうために箒を取り出し、出せる最大のスピードで店に向かった。





「みんな、おれの後ろから出るなよ…」

「ベ、ベポ…」

恋歌が店に向かう少し前、メアリの悲鳴を聞いて駆け付けたベポは、背中にラン、ローゼ、ウィリアムを庇いながら、目の前に立つ男を睨みつけていた。

「その子を離せ！！」

「はっ…何度も言わせるな

このガキとそこの女と交換だって言ってんだろ」

「わぁああああん！！」

「メアリ…」

男がメアリの首根っこを掴みながらぶらぶらと目の前で振ると、メアリの目から大粒の涙が零れ落ち、大声で助けを求めるようにじたばたともがいている。

「ベポくん、いいのよ

わたしが行けば…」

「だめだ

おれの後ろから出ないで」

メアリを助ける為にランが前に出ようとするが、ベポとウィリアムがそれを許さない。

「はぁ…おれはちゃっちゃと仕事終わらせて酒が飲みてぇだけなんだわ

そういうぬるい仲間ごっこはいいって」

男はめんどくさそうに欠伸をしながら泣きわめいているメアリを鬱陶しそうに自分の耳から遠ざける。

「(こいつ…さっきから隙だらけに見えて攻撃する隙はない…

なんとかメアリだけでも助け出さないと…)」

ベポは何とか無傷でメアリを助け出す方法はないかと男から目を逸らしていないが、一瞬の隙も見せない。

「…ウィリアム、離して」

「ラン！まさか…」

こう着状態が続いてから数分後、自分を守るように抱えてくれているウィリアムの腕を外してほしいと、ランがウィリアムに笑顔を向けた。

「ローゼ、メアリちゃんをわたしの所為で危険な目に遭わせてごめんなさい」

「そ、そんなこと…」

自分の娘が海賊に捕まっているという事態は、ローゼの心を揺さぶったが、大事な友人を差し出すという事もできない。

だが、泣き叫んでいる娘を見て、友人にかける言葉がないのも事実。

「だめだよ

ウィリアム、ランをそのまま抱えてて」

「言われるまでもない」

「メアリちゃんを助けるのが先よ！」

「お前が犠牲になったって状況は何も変わらない！」

「(いちかばちか…)」

後ろで言い争っている声を聞きながら、男に飛びかかろうと足に力を入れた。




「ぐへぇっ…！？」

「「「！？」」」

「わっ…」

だが、ベポが動き出すより早く、細長い棒が男の頬に直撃し、その衝撃でメアリを掴んでいた手を離してしまい、そのまま倒れ込む。

『…間に合った、って事で、いいのかな？』

「恋歌！！」

メアリが地面に激突するより早く、箒の柄をぶつけた恋歌がメアリを腕に抱えた。

「おねぇ、ちゃ…」

『ごめんね、遅くなって』

泣き腫らした目をしているのを見て、ついさっき捕まったわけではないのだとわかった恋歌は、ベポの後ろで祈るように手を組んでいたローゼにメアリを渡した。

「恋歌ちゃん…あなた…」

「恋歌、来てくれて早々悪いんだけど、あいつ倒さないといけないんだ」

『うん、そのつもりで来た

【牡牛座の加護(タウロスブレス)】』

これでこちらは2人になったと、シリウスを握る力を強めベポに魔法をかけた。