『ふぅ、取り敢えず、この辺りは、これだけみたいだね』

「ああ」

襲い掛かってきた男たちを全て倒し、ひとまず大丈夫だろうと息をはく。

「小僧たちと合流するか？」

強敵がいるのであればばらばらにいるより、一緒にいた方がいいだろうとシリウスが提案すると、恋歌は首を縦に振った。

『もしかしたら、誰かが…！！



シャチ！ペンギン！！』

ここにいないという事は既に誰かが戦い始めてるかもしれず、仲間の誰かと合流した方がいいかもと戦闘音がする方へ向かおうとすると、目の前の建物が破壊され、建物を突き破るようにシャチとペンギンが吹き飛ばされてきた。

「え…恋歌…？」

『2人とも、大丈夫？』

破壊された建物とは別の建物の壁に激突したままぴくりとも動かない2人に恋歌が駆け寄ると、驚いたように2人が顔を上げた。

「ははっ、どっちかって言うと大丈夫じゃないなー」

「やっぱ日ごろの行いかなー」

『え…？』

既にぼろぼろの2人は自虐的に笑いながらふらりと立ち上がり、傷だらけの手で一緒に吹き飛ばされた武器を握りしめた。

「はっ、しぶとさだけは一人前だな」

「そりゃどうも」

いつの間にか崩れた瓦礫の上ににたりと笑った男が立っており、ぼろぼろのシャチとペンギンを見下ろしている。

禍々しいまでの魔力に感じる威圧感。

『ペンギン…もしかして、あの人が…』

「ああ…おれが見た3人いたやばそうな奴の1人だ」

そう言われて瓦礫の上にいる男を見れば、何かを探すようにきょろきょろと顔を動かしているのが見える。

「なぁ、もう一度聞く

緑の髪に茶色の瞳をした”ラン”って女、どこにいるか知ってるか？」

『！！』

「知らねぇって言ってんだろ！！」

「知ってたとしても言う訳ねぇだろ！」

武器を構えたシャチとペンギンは、もう一度男に向かって突っ込んでいく。

『シャチ！ペンギン！！

【牡牛座の加護(タウロスブレス)】！』

あそこまで2人がぼろぼろなのを見れば、勝ち目がかなり低い事がわかる。

恋歌の声にも立ち止まる事はなく、2人の武器が男に届く前に恋歌の魔法が2人の身体を包んだ。

「…あの女も、魔女か」

「だったらなんだ！！」

「何度向かってきたところで……ん？」

にやりと笑った男はシャチとペンギンの攻撃を受け止めようと、武器である棍棒を振り回し受け止めた直後に2人を弾き飛ばそうと力を入れたが、なぜか弾き飛ばす事が出来ず2人の力に押されている。

「(力が上がった…？)」

『【レプス

スコーピオン】』

男をペンギンとシャチが押さえているのを見て、恋歌も攻撃しようと自分にも魔法をかけて斬りかかる。

『(一発でも当たれば…！)』

少しでも刀で傷をつける事ができれば、恋歌の魔法でどんな相手でも毒を浴びせる事が出来る。

相手が強ければ強いほど効力は薄いが、動きを鈍らせることはできるはずだとシャチとペンギンが作ってくれる隙をついて攻撃を仕掛けるが、3人の攻撃を全ていなされ、誰も相手に傷をつける事ができない。

「くそっ…

恋歌の魔法でいつもより身体能力が上がってるはずなのに…」

「頑丈な上に、反応速度もおれたちより上…」

こちらの傷ばかり増え、相手の余裕そうな表情は崩れない。