それからしばらくして、店の外から悲鳴や爆発音が聞こえ始めた頃、ハートの海賊団全員が目線を合わせて一斉に立ち上がった。

「あんたはここに戻ってきたやつの手当てを頼む

怪我人は全員見かけたらここに来るように伝えてやる」

「…わかった」

「…そいつ、返してくれるか」

「え？シリウスも行っちゃうの？」

ちらりとメアリを見て、腕の中にいるシリウスを指させば、メアリが驚いたように目を見開いた。

「…ああ」

もぞもぞとメアリの腕から抜け出して、恋歌の肩によじ登ったシリウスを見つめ、なぜか泣きそうになったのをぐっと堪えた。

「お兄ちゃんも…お姉ちゃんも…シリウスも…

みんな…無事に、帰ってくる、んだよね…？」

涙をこぼさないようにぎゅっと自分の服を握ったメアリは、不安そうな瞳を向けると、ぽん、っと頭の上に大きな温かい手が優しく乗せられた。

「ああ、ここで待ってろ」

ぶっきらぼうな言い方だが、ローが優しいということはすでに知っている。

優しく傷の手当の仕方も、薬草の見分け方も教えてくれたローの言葉を信じたいと、メアリは涙をごしごしと袖で拭って大きく頷いた。

「絶対、ぜったい、帰ってきてね…！」

「ああ

行くぞ」

もう大丈夫だろうと判断したローは部下たちを連れて店から出て行った。






店の外に出ると既に海賊たちは街の住民たちを襲い始めており、海賊たちがいる方とは逆方向に住民たちが走っていく。

焦げ臭いにおいに不快な笑い声、悲鳴に銃声。

「いいかお前ら、くれぐれも無茶はするな

無理だと思えば逃げる事も考えろ」

「「「アイアイ、キャプテン！！」」」

それに眉間に皺を寄せたハートの海賊団は、ローの言葉に頷いて各々が出来る事をするために走り出した。

「恋歌」

『はい』

走り出さなかった恋歌にローが声をかけると、シリウスを刀に戻してから行こうと思っていたらしく、右手に刀に戻ったシリウスを握りしめていた。

「あの男にも気をつけろよ

何かあれば居場所がわかるような合図出せ」

『うん、わかった』

恋歌が警戒すべきは海賊だけではない。

ペンギンが強い相手がいると言っていた以上、それを倒す役目はローが担う事が多い。

恋歌の事は信じているが、心配をしてしまうものは仕方がない。

それをわかっている恋歌は、笑顔で頷き自分の身体を強化して海賊たちが暴れている場所に向かって行った。







「おいおい…嘘だろ…」

「相手は女一人だぞ…」

『(ここにいる人たちは大したことないな…)』

街の人たちの悲鳴が聞こえる方角に向かい、襲われかけていた人たちを救うために海賊の前に立ち塞がり、恋歌の容姿に不気味な笑みを浮かべた海賊たちは、恋歌を生け捕りにしようと最初は手加減をして攻撃を仕掛けてきた。

それが間違いだと気づいたのは数人倒されてから。

蠍座の毒を刀にしたシリウスに纏わせているため、一度斬りつければ身体が動かなくなり意識を保ったまま地面に倒れ込む。

「恋歌ちゃん…だよな…？」

ランの店に来てくれていた客や、街で商品を買ってくれた人たちは、守るように戦っているのが恋歌だと気づいたが、同一人物だと信じる事が出来ずぽかんとした顔をしたまま恋歌の背中を見つめている。

「こいつらぐらいなら恋歌1人でも充分だな

問題はガキが言ってた強いやつってのがどこにいるかだ」

目の前にいる海賊たちは下っ端の様で、大掛かりな魔法を使わずとも勝てる相手。

だが、ペンギンが言っていた強敵がどこかにいる以上、油断をすることはできない。