「ぷるぷるぷる、ぷるぷるぷる…」

「「「！！」」」

それから何事もなく昼を迎え、少し空が赤く染まり始めたころ、机の上に置いていた電伝虫が着信を知らせた。

全員がその音に反応し、ローが受話器を持ち上げると、いつもより小さな声でペンギンの声が聞こえてきた。

「キャプテン、今あいつらが到着した

人数は30から40人ぐらい

正直何人かおれたちじゃきつい奴がいる…」

「…わかった

それなら混乱だけさせて戻って来い」

「アイアイ、キャプテン」

人数の多さと、声から緊迫した雰囲気を察知したローは手短に指示を出し電伝虫の受話器を戻した。

「…思ったより早かったわね」

「しかも相手の人数も思ったより多いときた…」

ペンギンからの報告に現実味が増し、ランとウィリアムの口調も硬くなる。

「(あいつらが瞬時に敵わないと判断する相手か…)

恋歌」

『？』

敵の強さを分析する力は生きる為に必要であり、海賊になってから数年、自分たちで勝てないと判断した相手には正面から戦うなとローから言われている。

その為混乱だけさせて戻って来いと言ったが、誰かがその敵の相手をしなければならない。

「…無理はするなよ」

強い敵の相手をするのは1人であれば戦闘力的にローが多いが、複数人いるとなればローの次に強い恋歌が相手をすることになる。

最近では魔力の配分もほぼ完ぺきに近い状態になり、戦闘時にはシリウスが傍にいる為怪我をする事も少なくなってきた。

それでも無傷で勝てる相手が少ない事もわかっている。

笑顔で頷いた恋歌の頭に手を置き、手触りの良い髪を撫でてやれば、恋歌がその手の上に自分の手を重ねた。

「あいつらが戻ってきたら出るぞ」

もう一度頷いた恋歌の手を握り締め、3人が無事に戻って来るのを待った。





「み、みんな真っ黒じゃない！！」

連絡があってしばらくしてから扉が開いた音に反応し、全員が視線を向けると、いつもは汚れ一つないつなぎが真っ黒になった3人が立っていた。

「あー、大丈夫大丈夫」

「ちょっと爆発に巻き込まれただけだし」

「爆発！？」

へらへらと笑いながら平気だと手を振る3人に、ランが慌てたように2階に上がって腕にタオルと救急箱を持って戻ってきた。

「取り敢えずこれで顔拭いて…

怪我があればウィリアムに…」

顔に着いている煤を渡されたタオルで拭い、怪我をしていないかと心配しているランに、もう一度大丈夫だと告げるが、ランと同じくローゼもメアリも心配しているようで、おろおろしているのが見える。

「ほんとに平気だって、ありがとな

そんなことよりもうすぐこの街に海賊が来る」

「おれたちが爆発で混乱はさせたけど、それも時間稼ぎにすぎないからな」

「取り敢えずはそれで上出来だ

後は…ここで相手を迎え撃つ」

「「「アイアイ、キャプテン！」」」

街に少し被害は出てしまうかもしれないが、強敵がどこに現れるかわからない状況で戦力を分散させるのは得策ではないと、街が騒がしくなるまで店で待つ事にした。