シャチがあったことを全て話すと、ローの眉間に皺がよった。

「見境のねぇ猿だな」

夕食の準備をしている恋歌とランは、カウンターに座っているローゼと雑談を交わしながら楽しそうに笑っている。

恋歌はシャチの話を聞いてローの機嫌が悪くなっていく空気に耐えられずキッチンに逃げてしまったが、楽しそうな恋歌を見ると、レヴルの言動に苛立ちがつのっていく。

「まぁ話しかけられても無視すればいいんだけどさ

キャプテンの事を馬鹿にされるのはおれたちも気分良くないわけよ」

「……バレねぇ様にしろよ」

「アイアイ」

自分たちが海賊ということを知らないのかもしれないが、馬鹿にされて黙っているわけにはいかない。

「お話は終わった？」

ちょうどいいタイミングでランが夕飯を乗せた大皿を持ってきたので、ひとまず夕食を食べる事にした。

「「「いただきまーす」」」

「わぁ…これ食べていいの！？」

「ええ、もちろん」

メアリには特別にお子様ランチのようなプレートを作ってやり、ベポの横で小さな口を一生懸命動かしながら食べている。

「あの子の為にごめんね」

「いいのよ

ローゼとメアリちゃんならいつでも歓迎だしね」

「…あなたにはお礼を何度言っても足りないわね」

ランとローゼはソファ席に座ることなくカウンターで横並びになって夕食を食べている。

「ねぇ、ラン」

「なに？」

「わたしね…最近ここに来てなかったでしょ？

ウィリアム先生の診察も受けてなかったし…」

「そうね」

別にそれについて責めるつもりなどないランは続きを促したが、ローゼはぐっと唇を噛み締めて続きを言おうか悩んでいるように見える。

「言いたくないならいいのよ

わたしも、ウィリアムもあなたが元気でいてくれればいいんだから」

「…あなたたちの優しさに、甘えてばかりもいられないの

あの人がいなくなってから…あなたたちのおかげでここまで生きてこられた…」

「…大げさよ」

何の話かは分からないが口を挟むような内容でもないだろうと、いつもより少し静かに夕食の時間は過ぎていく。

「…今日久しぶりにレヴルを見たけど、何にも変わってなかったわ」

「そうね、わたしにも相変わらずだったわ」

「でも最近…たまたま…その…」

ぎゅっと手を握るローゼの手は震えており、伝えたいが伝えるのが怖いというのがわかる。

その手をランが包み込むように握り、優しく微笑みかければローゼが泣きそうな顔で口を開いた。

「…聞いたの

レヴルが…また同じことをしようとしてるって…」

「！！」

「…ありがとう、教えてくれて」

「「「？？」」」

ローゼの言葉は店の中にいる全員に届いたが、その言葉の意味を理解できたのはランとウィリアムだけ。

「ごめんなさいっ…わたしは…何もできなくてっ…！」

「何言ってるの

勇気あるあなたの行動で助かる命があるの

それにあなたはメアリちゃんを守らないと

１人じゃないのよ」

「…そう、ね」

震えながら泣き始めたローゼの頬を掴んでランが少し強い口調で言うと、お腹がいっぱいになって眠ってしまったメアリを見て涙を拭って頷いた。