話せない恋歌の代わりにシャチとベポとレヴルの無意味なやり取りが続き、シャチがいらいらして気絶させてやろうかと力技にでようかと考えた直後、レヴルの後ろから見慣れた人物が歩いてきている事に気づいた。

「…何してる」

「ちっ、今のランの旦那か」

歩いてきたのはウィリアムでお互いに嫌そうな顔をしてばちばちと睨み合っている。

「こいつらに何の用だ」

海賊とはいえウィリアムにとってランの店を手伝ってくれているハートのクルーたちは大事な存在であり、その３人が困っている様子に間に入り込んでぎろっとレヴルを睨みつける。

身長差的にウィリアムがレヴルを見下ろす形になり、元々の目つきの悪さもありレヴルの口元が少しひきつった。

「その子をおれの第２夫人にしようと思ってね」

「あ？」

「君には関係のない話だ

口を出すな」

”その子”というのが恋歌の事であると気づき、レヴルの視界に入らないように恋歌の前に立つ。

「この子は昨日一緒にいた男の恋人だ

お前が手を出していい子じゃない」

「ああ、あの目つきの悪い男か

あんな男のどこがいいんだよ

たしかに顔はそこそこだったけど、おれの方がいい男だしさ」

その言葉にむっとしたのはハートのクルーで、自慢の船長を馬鹿にされて黙っていられるわけがない。

「お前に人をどうこう言う資格はない

人の嫁や人の恋人に手を出すな」

だが、ウィリアムが視線でじっとしてろと伝えてきたので、３人はぐっと堪えた。

「もう戻ろう

ランが待ってるはずだ」

「…今日は予定があるから帰ってあげるけど、２人の事は近いうちに迎えに行くよ」

ベポに突き返された花束を持ち、ウィリアムの後ろにいる恋歌に手を振って帰っていった。

「なんだよあいつ…

頭おかしいな…」

「甘やかされて育ってるからな

今まで手に入らなかったものはないって言ってた」

百歩譲って何か理由があって別れたいけれど別れる事が出来ない既婚者や恋人のいる女性に求婚するのはわかる。

だが、恋歌もランも関係は良好で、他者が入る隙などない。

「大丈夫？変な人だね」

≪大丈夫、ありがとう

なんかびっくりして何もできなかった≫

「そりゃあんな事急に言われたら仕方ないよ」

あんなことを急に言われてもどこから反論すればいいのかわからなくなるのも当然だろう。

「まだあの人ランの事諦めてないんですね」

「ああ…」

ランの友人であるローゼもレヴルの事を知っているのか、同情するかのような視線をウィリアムに向けた。

「あんたも店に来るのか？」

「はい」

「そうか、ランも喜ぶ」

珍しくふっ、と笑ったウィリアムは”行こう”と先導するように歩き出す。

ベポがシリウスを抱えたままのメアリを肩に乗せ、恋歌とシャチは荷物を持ってウィリアムの背中を追いかけた。