朝食を食べ終え、開店したが昨日までの行列が嘘のように誰一人として並んでいる者はいなかった。

「はー…ここまであからさまだとかえって感心するわー」

「あの子たちの親…父親はこの街では絶対の権力者

この街の税率を決めているのはその人で、下手に逆らえば税率があがって自分たちの生活が苦しくなるだけ

だからみんな逆らえないのよ」

「へー…まぁそりゃ自分の生活が大事だもんな」

納得する内容だが、自分の息子の横恋慕にこんなに早く対応する親も親だなと呆れたようにため息をついた。

「あら、今日はお出かけ？」

「ああ、一日出てくる」

「気を付けてね」

「いってくる」

「いってらっしゃい」

いつもは自室にこもっているか喫茶店で勉強をしているかのどちらかのウィリアムがのそのそと出かけて行った。

その背中をひらひらと手を振って見送り、ダメ元で店の看板を出してから店の中に戻った。

「それじゃあおれたちは前と同じ場所に売りに行こう」

前と同じ恋歌、ベポ、シャチの３人で販売する為に木箱に商品を詰め込んでいく。

「よし、じゃあ恋歌

ここに座れ」

ぽすぽすと叩かれたカウンター席の椅子に座りシャチが恋歌の髪に指を通す。

「あれ？それって昨日買ったリボン？」

「そうそう、これをこうして…」

シャチの手元にある見覚えのあるリボンをじっとベポが見つめ、編まれていく恋歌の髪を静かに見つけていると、すぐに完成した。

「よし、できた！！」

「えー！！すごい！！」

満足そうなシャチの声と、興奮しているベポの声に、恋歌も自分の髪型がどうなっているのか気になり、近くに置いてあった鏡を手に取った。

『わ…すごい…』

恋歌の髪はいつものアップスタイルではあるが、髪に昨日買ったリボンが一緒に編込まれている。

星の輝きと称される銀の髪に赤いリボンが映え、いつもと同じ髪型でも華やかさが違う。

「すごく可愛いよ！！

ねぇ！キャプテンも見てよ！！」

ぐいぐいとベポがローを引っ張ってくると、恋歌の後ろに立ってじっと恋歌の髪型を見つめる。

『どう？』

「…似合ってる」

「ちがーう！！可愛いって言うの！！」

「…可愛い」

『ありがとう』

ベポに少し怒られたローだったが、可愛いと思った事は事実なので素直にその言葉を口にする。

思ってない事は言わないタイプなので、恋歌も嬉しそうに礼を伝えると、ぽり、と小さく頬をかいて少し恥ずかしそうにしている。

「よーし、じゃあ今日はこれで全部商品を売るぞ！！」

『おー』

ぐっと拳を突き出してきたシャチの拳に恋歌とベポがこつんと拳を当て、準備をして外に飛び出していった。

「ローくんは行かなくていいの？」

ペンギンは店の事を手伝ってくれているが、ローはウィリアムもおらず恋歌たちもいなくなった店で一人ソファ席に座り医学書を開いている。

可愛くした恋歌が外に出る事が心配ではないのかと声をかけたが、一瞬ちらっと視線を向けただけでまた医学書に視線を戻した。

「…この状況であんたの近くにペンギン一人だけを残すっていうのは危険だ

昨日の奴らがどんな手を使ってくるかもわからねぇ」

「でもそれは恋歌ちゃんたちだって一緒じゃ…」

「恋歌も言ってただろ

あいつは海賊だ

簡単にやられる女じゃねぇよ」

「…ええ、そうね」

恋歌に対する信頼と仲間への信頼を感じたランはそれ以上何もいう事はせず、ペンギンと一緒に作業を続ける事にした。