次の日の朝、目が覚めた恋歌とローはいつも通り１階に降りると、ランが既に朝食の準備にとりかかっていた。

「２人ともおはよう」

「…ああ」

『…おはよう』

昨日のことなど何もなかったかのようにいつも通りのランの笑顔に、ぐっと言葉に詰まった恋歌だったが、ぽん、とローに背中を押されじっとランの目を見つめた。

『ラン』

「？」

真面目な顔をしている恋歌に何を話すのかとランが首を傾げる。

『わたしは…諦めないから』

「え？」

「なんだなんだ？」

「黙ってろ」

ぞろぞろと２階から全員が下りてきて騒がしくなりつつある雰囲気をローの一声で静かになり、恋歌が続きを話すために口を開く。

『わたしは、ランの夢も、ウィリアムも、諦めてほしくない』

「恋歌ちゃん…

わたしはウィリアムと一緒にいられたらそれでいいの」

『わたしだって、ローと、みんなと一緒にいたいから、その選択を迫られたら、きっと悩むと思う

けど、出来る事をやってからでも、遅くないと思うの』

「…恋歌ちゃんも、わかってるでしょ

わたしたち魔女は人に魔女だとばれるわけにはいかない

だから…変に騒ぎを起こしたくないの…」

『わかってる

でもわたしは、海賊

だから、”自由”なの』

「”自由”…」

恋歌がランの手を握って笑いかければ、ランも諦めたようにふっと口元に笑みが浮かんだ。

『魔女は、ずっと正体を隠して、生きていかないといけない、かもしれない

でも、”自由”に生きていたい…生きて欲しい

そのお手伝いを、させてほしい』

海賊になってから初めて出会った優しい魔女に、恋歌ができる精一杯の事をしたいとローに相談し、”好きにしろ”と言ってもらえた。

その言葉がなによりも心強い言葉であり、いつでも恋歌の背中を押してくれる。

「うん、ありがとう…

お願いします」

『はい』

「よっし！！そうと決まれば今日も開店準備だな！！」

観念したように頭を下げたランに、恋歌が頷いたのを確信し会談で静かに話を聞いていた３人が騒がしく喫茶店の中になだれ込んできた。

「店に人が来ないならおれたちから行けばいい！」

「だな！！

初日に使ったやつ持ってこようぜ！」

「アイアイ！」

ばたばたと準備に取り掛かる部下たちを横目に、ローは定位置になりつつあるソファ席にどかっと腰を下ろした。

その直後に目の前に座ったウィリアムに視線を向けることなく口を開く。

「あんたはあいつに何が出来るか考えたか？」

「…ああ、今日は少し出かけてくる

部屋のものは好きに使え」

「わかった」

どこに出かけるのかはわからないが、ランの為にウィリアムが動こうとしているのを止める事などできるわけもなく、短い会話をした後は無言で慌ただしく開店準備をする５人の様子を眺めていた。