そのメモの内容を読んだマリーは、ぽいっとその紙を捨てローに向かってにっこりと笑みを浮かべた。

「本日はご挨拶ができただけでも良しとしますわ

今度は邪魔がいない場所でお会いしましょう」

「あ？二度と来んな」

「この街でわたしにそんな口のきき方をされるのはあなたぐらいですわ」

ふふっ、と上品に笑うマリーは今度はずっと睨み続けている恋歌に視線を合わせる。

「あなたが最近そこの女の下働きに入ったという子ですわね

…まぁ、そこそこ噂になる程度のお顔立ちというのは認めましょう」

じーっと恋歌の顔を見つめた後、品定めでもするかのように頭から足先へと視線を滑らせてから、あざ笑うかのように小さく笑みをこぼした。

「あんたこの街で一番人気のある喫茶店で働いてる子だろ？」

「あら、そちらの方はお目が高いわね

ええそうよ

お父様が建ててくださった”喫茶マリー”の看板娘ですわ」

(((自分で看板娘って言うのか…？)))

ペンギンが見た事あるとマリーに声をかければ、胸を張って今度はランを見てにやりと笑う。

「お兄様はこんな女のどこがいいのかわかりませんが、あなたがお兄様の求婚を受け入れない限りあなたの店にお客が来ることはありませんわ

今はその子のおかげで一時的に繁盛しているようですが、それもすぐ終わります」

「！！」

「……そのお話は何度も断ってるわよね

わたしにはウィリアムがいるの」

マリーの話に驚いたように目を見開いたウィリアムはばっ、とランの顔を見るが、ランはすべてわかっているかのように首を横に振っているだけ。

「ラン、おれはお前を諦めるつもりはない

あの店を潰したくなければおれのところに嫁に来い」

「……お断りします」

「ふんっ、そうか

おいマリー、今日は帰るぞ」

「え！？もうですの！？」

にっこりと笑顔で断ったランに、不敵な笑みを浮かべたレヴルはマリーの腕を引いてその場からあっさりと立ち去った。

「なんか…面倒な兄妹だな…」

「ああ…」

おそらくあの２人の親がペンギンが言っていたこの街での権力者なのだろう。

「ラン…お前…あのガキにあんな事を言われてたのか…」

「…黙っていて、ごめんなさい

でも…わたしは…あなたの傍から離れるつもりはないの」

元々不思議に思っていた事だった。

いくら喫茶店の客足が遠のいた理由が接客と権力者の娘が看板娘の店の所為だったとしても、これだけ街の人と親しく味も負けていないランの店の客足が０になる事などあるのかと。

ウィリアムから依頼をされる前からランは客足が遠のいた理由は知っていると言っていた。

それはレヴルからの求婚を断っているから。

その所為でランの店にはお客が誰も来ないようにされていたのだと、ウィリアムは初めて知った。

「今お客さんが来てくれているのは、きっとローくんと恋歌ちゃんのおかげなの…」

「おれと恋歌が？」

「マリーがローくんの事を気に入ってしまって…おそらくレヴルは恋歌ちゃんの事も狙っているはず…

お客さんの中にはあの２人に依頼されて来た人もいるはずだから…」

”頑張ってくれたのにごめんね”と申し訳なさそうに笑うランに、一番悔しそうにしているのはウィリアム。

自分の大事な人が苦しんでいる時に何も気づかずにいた事も、相談もされなかったことも、今なにも解決策が浮かばない事も何もかもに憤りを感じる。

「あんたは…それでいいのか…？」

「ええ、この数日間とても楽しかったわ

これで心残りなくお店を閉められるわ」

ローの言葉ににっこりといつも通り笑うランに、誰も何も言う事が出来ずその日は自然と買い物が終わり、店の方に足が向いた。