生地屋での買い物も終わり、いつも通り人目につかない場所で恋歌の収納魔法の中に荷物を入れ、次はどこに行こうかと悩んでいると遠くからランの名前を呼ぶ声が聞こえた。

「ラン！！」

「……」

「あら、レヴルこんにちは」

ランの名前を大声で呼んで引き止めたのは、ウィリアムより若い男でその男が姿を現した瞬間、ウィリアムの眉間に皺が寄った。

「こんなところで会うなんて偶然だな」

「そうね」

「「「……」」」

人当たりの良さそうな笑みを浮かべた優男で顔はそこそこ整っているレヴルだが、自慢なのか綺麗にそろえられた金髪をかきあげ、ランに”何か”をアピールしている。

その仕草でレヴルがランを狙っていおり、その所為でウィリアムの眉間に皺が寄ったのだと理解した４人は小さくため息をついた。

「あ、君は最近ランの店で働き始めたって噂の子だね

僕はレヴル、よろし…」

ランが手を繋いでいる先にいるのが最近話題の恋歌だと気づき、握手をしようと手を差し出したが、それより先に恋歌とレヴルの手の間に刀の鞘が割り込んできた。

「触んな」

「……君の噂も聞いてるよ」

「あ？」

鬼哭の鞘が割り込んできた為その刀の持ち主を辿ると、ウィリアムより何倍も眉間に皺を寄せたローが立っていた。

「ランの店に可愛い子だけじゃなくてイケメンもいるってね

君のことだろう？」

「…知るか」

そんな噂が流れているとは知るわけもなく、さっさと行くぞと恋歌の手を引く。

「あー！ちょっと待って！」

「……離せ」

(((命知らずだな…)))

「君にも用事があるんだよ」

立ち去ろうとするローの手首を掴み引き止めたレヴルは、ローの睨みが効いていないのか気づいていないのかどっちなのだろうか。

笑顔を崩すことなく口を閉じる事のないレヴルにびきっ、とローのこめかみに青筋が浮かんだ。

「僕の妹が君とお話ししたいらしいんだ

もうすぐここに来るから話し相手になってやってよ」

「ふざけんな

いい加減にその手を離さねぇと手首を切り落とすぞ」

「あー！！！」

もうぶちぎれる寸前というところまできているが、レヴルが気づいていないためそろそろ助け舟でも出そうかとペンギンがベポに目配せをした直後、また大きな声が少し遠くで聞こえたため全員が声の方へ視線を向けた。

「マリー…」

「お兄様ったらわたしに内緒でその人に会うなんて聞いてませんわ！！」

「あの子たしか…」

ずかずかとレヴルに近づきながら大声で文句を言っているマリーと呼ばれた少女はレヴルと同じ金髪を持ち、ぱしん、とレヴルの手を叩いて手を離させ、そのままローの方を見てきらきらとした視線を向けると、ローは一瞬その視線にたじろいだ。

「わたしマリーと申します

あなた様のお名前を教えて頂けますかしら？」

「…は？」

『！！』

上品な動作でスカートの端を少し持ち上げて挨拶をしたマリーは、驚きで固まっているローの手を握ってさらに近づいた。

「…あら、あなたなに？」

だが、そんな事を恋歌が黙って見ているわけもなく、慌ててローとマリーの間に身体を滑り込ませ、きっ、っとマリーを睨みつけた。

≪この人に触らないで≫

「わぷっ…」

殴り書きといっても過言ではないほどの字体でメモ帳に字を書き、マリーの顔にその紙を押し付けた恋歌は、ローをぐいぐいと押してマリーから遠ざけようとしている。