「その時はなんて頑固な女なんだと呆れたもんだ

だが、お前たちならわかるだろ

ランは…あの子もだろうが…魔女は紋章を人に見せる事を嫌う」

事情を知らない時はただ医者が嫌なだけで、ただの我儘かと思っていたが今はわかる。

魔女であるという事を知られることが、どれだけ危険な事かを。

風邪を引いたという事であれば、もしかしたら心臓や肺に聴診器を当てられたときに紋章が見えてしまうかもしれない。

１人暮らしということで誰かが善意で着替えを手伝ってくれるかもしれない。

「あいつは…風邪を引くことすら怯えて…医者にかかる事も怖がってた

まぁ後で聞いたら風邪ぐらいならランが作った薬草で薬を作ればすぐに治るらしいんだがな」

「恋歌はキャプテンが傍にいるから医者にかかることはないけど…

そっか…

そうだよな…

紋章を隠して生きるって…簡単な事じゃないよな…」

この世界にいったいどれだけの数の魔女が生きているのかはわからないが、この大海賊時代で完璧に安全な場所などない。

どれだけ気を付けていても風邪を引いてしまう時もあれば、怪我をしてしまう時がある。

「魔法を使っているところを見た事があるおれは、弱っているランから自分は魔女であるという事を聞いて、その時決めたんだ

ランが安心して診察を受けられるようにしようとな」

たった一人だけでも秘密を守ってくれる人がいるという事がどれだけ心強い事か。

それが医者であれば尚更。

「だからおれは本を書いた

お前みたいな魔女の事を知る医者が一人でも増えて、魔女が生きられるようにな」

「…そうか」

魔女の事を知っている医者などこの世界にどの程度いるのかわからない。

それでもウィリアムはランのような魔女を一人でも減らすために本という形で魔女を救おうとしている。

「あんたの知識は無駄にしねぇよ

恋歌がこの先どんな怪我をしようと、おれが必ず治す」

「…期待している」

ウィリアムの願いはローに届き、ローの知識は１人の魔女を救っている。

それにこれから出会うかもしれない魔女の命も。

「お前らに感謝はしてる」

「…なんだよ突然」

「同じ境遇である魔女に出会わせてくれたことも、ランの夢を手伝ってくれたことも…全部だ」

「はっ…んなもん、礼を言われるようなことじゃねぇよ」

「…そうか」

「あ！！二人がナンパされてるよ！！」

「「なに！？」」

ちょうど話がひと段落したとき、前を歩いていた二人を見れば見慣れない若い二人組の男に声をかけられているところだった。

ベポの声に反応してペンギンとシャチが飛び出し、男たちを蹴散らしている。

「…比べるつもりはないが、緑の魔女より星の魔女の方が狙われることが多いと聞いた」

「…ああ、おれもそう聞いてる」

「この先旅を続けるならおれよりも困難が待ち受けてるだろうが…ちゃんと守ってやれよ」

「心配にはおよばねぇ

恋歌は…守られるだけの女じゃねぇからな」

男たちを蹴散らした後、少し離れた場所にいるローとウィリアムを待っているようで、５人とも立ち止まっているのを見て少し歩くスピードを上げた。