「あ！ランさんじゃないか！

今日はお店お休みかい？」

「ええ、また明日来てね」

「ランさん！いつもの美味しい紅茶のお礼に今日は安くしとくよ！」

「嬉しい！でも今日はこの子とデートだからまたにするわ」

「お！その子が噂の美人さんだね

これおれから２人に」

「ありがとう！！」

「「「……」」」

一歩店を出て街を歩けばさまざまな店からランに声がかかり、それにすべて笑顔で返している。

”デート”だと言って恋歌と手を繋いで先頭を歩いているランと恋歌に、ドリンクを売っている男からジュースを貰い、それを飲みながら恋歌が好きそうな店や街の紹介をしているのを男たちは無言で着いていく。

「ランっていいやつだよな…」

「ああ…この街のみんなランの事好きなんだってわかる」

店は客足が遠のいたとはいえランの明るい人柄は他の者たちも笑顔にし、恋歌も横で楽しそうに笑っている。

「そういやどうやってランと出会ったんだ？」

「……」

今はもう数の少なくなった魔女にどうやって出会い、結婚したのか気になりペンギンが無言で一番後ろを歩いてるウィリアムに顔を向けると、ペンギンの目とランの背中を交互に見つめ、小さくため息をついた。

「…あいつは、ある日急にこの島にやってきて…最初は花屋を始めたんだ」

ぽつぽつと話しはじめたウィリアムの話を邪魔しないように全員が口を閉じ、簡単な相槌を打って二人の出会いを聞いた。

どこから来たかわからないランに最初は街の人間も警戒していたが、優しい笑顔と豊富な花の知識、美しい容姿、見た事のないような花を売っている珍しさから、街の人間と打ち解けるのはそう時間はかからなかった。

最初はウィリアムも街の人間が１人増えた程度にしか思っておらず、花に興味のないウィリアムとランの接点は無いに等しかった。

だが、ある日街に海賊が現れ怪我人が大量に出た。

海賊はたまたま近くにいた海軍が蹴散らしてくれたが、外科医であったウィリアムは街の人たちの治療にあたり、寝る間もなく駆り出されていた。

「その時に使っていた薬草が切れてな

海軍の到着が遅かった所為で薬草を栽培していた畑も燃やされ、新しい薬を作るにも材料が足りず困っていた」

「もしかして…それを助けてくれたのが…」

「ああ、いきなり目の前に現れて…笑顔以外の表情を見た事がないと街の連中が言っていたが、その時は何かを決意したように唇が切れそうなぐらい噛み締めてた

それから畑に案内しろって言われて…最初は怒鳴りつけてやったよ

この非常事態に花屋なんかに何が出来るのかってな

でも…あいつはおれに怒鳴り返してきて…薬草畑に連れて行けと言った」

その時の事を思い出しているのか、ウィリアムの目に少しだけ優しい光が灯っているいることに気づいて、黙って聞いていた４人も自然と口元が緩む。

「それで燃えカスしか残ってないような薬草畑に連れて行ったら…あいつの力で新しい薬草が一瞬で成長してな

そのおかげでこの街の連中は助かった

事実はおれ以外誰も知らねぇがな」

魔法の事も魔女の事も話す事は出来ず、ランはみんなが無事であるならそれでいいとウィリアムにみんなには黙っていてほしいと言った。

「そっからだな

毎日興味のねぇ花屋に通うようになったのは」

「へぇ…それで？どうなったんだ？」

人の恋の話を聞くのが楽しいらしく、今度はシャチが興味津々な視線を向けて続きを促した。

「…最初は逃げられた

おれがランの秘密を知ってるからか、少し気まずかったらしい

関係が変わったのはあいつが風邪を引いた時だ

日課になりつつあった花屋に行けば、真っ赤な顔でふらつきながら店の中で花の世話をしているのを見かけて、強制的に店を閉めさせて布団に放り込んでやった

知っての通りおれは外科だからな、本当は風邪は専門外だ

だがあいつも頑固で病院にはいかないと言い切るんでな

おれ特製の苦い薬を処方してやった」

「ははっ、魔女ってみんな頑固なんだな」

「恋歌も意外と頑固だもんね」

その姿が容易に想像できたのか笑えば、それに気づいたランと恋歌が振り向いて不思議そうな顔をしているのが見える。

手を振って何でもないと伝えれば、すぐに目の前のウィンドウに飾られた服に視線を戻した。