昼食後はランと恋歌とペンギンが仕込みを始め、シャチとベポは店内の清掃や裏の畑に食材を取りに行ったりと、また忙しそうに動き始める。

それを横目にローとウィリアムは医学書を開いてたまに言葉を交わして、それぞれの休憩時間が終了し再度開店の時間。

今日は急に途中で一度閉店した為、開店した直後からすぐに店の中はたくさんの人であふれかえった。

「え、ウィリアムさんいるんだけど…」

「ほんとだ…」

「あの人患者には優しいけど、ランさんの事になると怖いんだよな…」

「てかもう一人目つき悪い奴いるじゃん…」

恋歌とランに話しかけたり、必要以上に近づこうとすれば、すぐに鋭い視線が飛んでくるので男たちは昨日までのように２人に近寄れない。

「あの２人背中に目でもついてんのか…？」

そーっと２人の目を盗んで近づこうとしても、なぜかすぐにバレてしまい、本当に勉強も進んでいるのか怪しい所ではある。

だが、睨みを利かせている２人がいる事で抑止力になり、昨日よりスムーズに回転している。

「あ、この間のお姉ちゃんだ！！」

『(あ、あの子)』

「こ、こら！」

外に並んでいる母娘が入ってくると、聞いた事のある幼い声が嬉しそうな声を上げた。

ロープで道が作られていたが、そのロープの下をくぐって小さな女の子が恋歌の元に走っていき、きょろきょろと恋歌の周りを見渡す。

「今日はシリウス、いないの？」

広場で出張販売をしたときにシリウスと遊んでいた女の子で、今日もシリウスがいないかと飼い主の恋歌に聞きに来たらしい。

シリウスは飲食店の中に動物がいる事を気にする人間もいるかもしれないと、今は恋歌の魔方陣の中で休んでいる。

「恋歌ちゃん、呼んできていいわよ」

２階を指さしながら笑うランに頷いて、”待ってて”と女の子にジェスチャーをして一度２階に上がる。

「んぁ？

なんだ？」

泊まらせてもらった部屋に入ってシリウスを呼び出せば眠っていたようで、くりくりの目を見開いてあたりを見渡している。

『この間の、女の子がきてて、シリウスに、会いたいって』

「……ああ、この間の娘か」

それだけで理解したシリウスは、わかったと頷きぴょん、と恋歌の掌に乗った。




「あー！！シリウスだ！！」

恋歌が１階に戻れば、女の子が抱えられているシリウスに目を輝かせ、渡してほしいと手を伸ばしてくる。

「今日ももふもふだねー」

女の子の手に渡ったシリウスはわん、と小さく鳴き、女の子の頬をぺろりと舐めた。

「ふふっ、くすぐったいよ」

嬉しそうに笑う女の子はシリウスを抱いて、おずおずと恋歌を見上げてくる。

「また遊んでてもいい？」

≪いいよ≫

「わーい！」

「もう…」

恋歌から許可がでると、女の子は母親の制止を無視して外に走り出していった。

「あ、おれが見てくるよ」

「え、あ、ありがとう」

シリウスと一緒とはいえ、小さな女の子を１人で外に行かせるには不安があるだろうと、ベポがその後を追ってすぐに店を出た。

「お姉さんに時間があるならゆっくりしていっていいぜ

シリウスも遊んでもらえて嬉しいだろうし」

「…それなら少しお言葉に甘えようかしら」

シリウスが遊んでもらえて嬉しい、という性格ではない事は知っているが、少し疲れていそうな母親の背中を押して、ペンギンがカウンターへ座らせた。