ローに言われて優先的におにぎりを握った恋歌は、昼食前ということもあり小さな二つのおにぎりをローの前に置いた。

「ありがとな」

いつもペンギンが作ってくれるものより一回り以上小さなおにぎりを手に取り、好みの塩加減の味のするまだ温かいおにぎりを口の中に入れた。

「ん、美味い」

≪よかった≫

もぐもぐと頬を膨らませて咀嚼を続けながら優しい目をしているローに、仲間たちはいつもの事だと気にせず仕事を続けており、ランは微笑ましそうにその様子を横目で見ているだけ。

「「「……」」」

お客たちはローのおにぎりを羨ましそうに見つめており、その視線に気づいたローが恋歌に気づかれないように挑発的な視線をお客たちに向けた。

その視線にいらっとしたお客たちががたっと勢いよく立ち上がったが、もうローは恋歌に視線を向けている。

『？？』

「なんでもねぇ

変な奴がいれば言え」

周りの男たちに牽制するようにする、っと恋歌の頬を軽く撫でてやり、仕事に戻るようにと軽く背中を押してやると、頷いて仕事に戻っていった。

「…小僧」

「……」

ローと恋歌のやり取りを黙って見ていたウィリアムは、ローに昨日から考えていた提案をして、その提案にローはすぐに頷いた。






一度勉強をしている２階の部屋に戻り、昼食の時間になってからもう一度降りてくると、まだ人であふれており全員がばたばたと動き回っている。

「あら、もうそんな時間なのね」

ちらりと時計を見てもうお昼時ということに気づいたランは、”ちょっと待ってて”と言って２人分の昼食を作りにかかった。

「…おい」

「え？」

ランの言葉に返事はせずソファ席に座っている男４人組にウィリアムが声をかけた。

「お前ら食ったならさっさと帰れ」

机の上に並んでいる食器には何も残っておらず、ただランと恋歌をほっこりした顔で見ているだけの男たちは、ぎろりと上から睨みつけてくるウィリアムに身体を震わせた。

「い、いや…おれたち、お客だし…」

「いつ帰るかは…おれたちの自由、っていうか…」

ウィリアムの医者という職業上、お世話になったことはあるが、顔つきが怖い為必要事項以外話した事はなかった。

「長時間席を占領されちゃ迷惑だ」

先ほど紅茶を取りに下りて来た時もこの４人組が座っていた。

「人の嫁じろじろ見てんじゃねぇよ

ほら、さっさと帰った帰った」

手をひらひらとさせながら追い出す仕草をすると、ぐっと言葉をつまらせ渋々席を立った。

「何してんだよ、あんたら」

帰っていった男たちが食べたものを片付けに来たペンギンに呆れたような声で声をかけられたが、それに返事をすることなくローとウィリアムは席に座った。

「お前たち休憩は」

「え…

あー…それは考えてなかったな」

まだまだ客足が落ち着きそうにない店内を見て、ウィリアムが聞けばそういえばとペンギンが思い出したように頭をかいた。

「…あと１時間後、一度店を閉めろ

それから２時間休憩だ」

「へ？」

「ランにそう伝えろ」

「あ、ああ」

机の上の食器を器用に全部持ったペンギンは、カウンター越しにウィリアムの言葉をランに伝えた。

それに嬉しそうに笑ったランは、ウィリアムの方に向かって了承の意を込めてひらひらと手を振った。

「ふん…」

不機嫌そうにふい、っと顔を逸らしたウィリアムは綺麗になった机の上にどさどさと医学書を乗せた。