「……」

「……」

開店時間からしばらく経ち、最初に用意された紅茶がなくなった頃、２階では無言で医学の勉強が行われていた。

それもいつもよりも重い空気で。

「…おい」

「…なんだ」

勉強中とは思えないほどの重い沈黙を破ったのはウィリアムの不機嫌そうな声だった。

「…紅茶が、なくなったな」

「…そうだな」

ウィリアムの言いたいことを理解したローは、空になったカップを持って椅子から立ち上った。

先に歩いていくウィリアムの背中を追いかけ扉を開くと、いつもより騒がしい声が聞こえてきた。

「「……」」

がちゃりと喫茶店に繋がる扉を開ければ、ローとウィリアムは眉間に皺を寄せて目の前の光景を睨みつけた。

「はいはい！ちょっと押さないで！！」

「ベポ！お前これ持っていってくれ！」

「アイアイ！！」

「あ、ラン！次の注文これな！」

「はーい

あ、恋歌ちゃん

これできあがったから持っていってくれる？」

カウンター越しにランからサンドイッチの入った皿を渡され、恋歌がそれを受け取ってソファ席にいるお客に持っていっている。

「ねぇねぇ、君どこの子？

この島の子じゃないよね？」

「はいはーい、この子は仕事中なんで注文以外話しかけないでくださーい」

「あ！ちょっと！！」

ばたばたと忙しそうに全員が動き回っているが、恋歌に話しかけようとすると、必ずハートの誰かが邪魔をして恋歌が話しかけられるのを防いでいる。

「あら、２人ともどうしたの？」

住居に繋がる階段の前で黙って立ち尽くしているローとウィリアムに気づいたランが話しかけると、ウィリアムがため息をついて空けられていたカウンター席に座った。

「…紅茶がなくなった」

「…ふふ、そう

ちょっと待ってて」

いつも紅茶がなくなっても自分からここに来ることなどなかったが、それをわざわざ言う事はせず笑ってウィリアムの為に準備を始めた。

「ローくんも座って待ってて」

「…ああ」

わざと２人の為に空けておいてくれたのか、カウンターの２席以外は満席でまだ何人も並んでいる状態。

ローもウィリアムの横に腰掛け、ばたばたと動き回っている仲間たちに視線を滑らせる。

ペンギンとシャチが一番良く動いており、注文を取ったりレジをしたり客を席に案内したりと、スワロー島での接客を活かして楽しそうに働いている。

ベポはシリウスを頭の上に乗せながら主にランの手伝いをしており、外の畑に行ったり重たいものを運んだりと裏方で動き回っている。

恋歌は注文をとって注文を書いた紙をランに渡し、できあがったものを席に運んでいる。

注文を取る時、注文品を席に運んだ時に何とか話しかけようとする男たちが多いが恋歌は笑うだけで返答はしないうえに、ペンギンとシャチが邪魔をしに来ているため、男たちは恋歌の名前以外にも何か情報を得たいと話しかけるタイミングを計っていた。

「…恋歌」

『！』

鼻の下を伸ばしながら恋歌に視線を向けている男たちにいらっとしたローは、恋歌の名前を呼んでこっちに来いと指で指示をした。

小走りで近づいてきた恋歌はどうかしたかと首を傾げ、ローの言葉の続きを待っている。

「おにぎり、握ってくれ

腹が減った」

『？

≪さっき朝ごはん食べたよね？≫』

朝食は先ほど食べたばかりでまだ昼食の時間はもう少し先。

それでも食べたいのかと聞けば”ああ”と短い返事が返ってきたので、カウンターの中に入りランの肩を叩きにいった。