その後、２階から全員が下りてきてから朝食を摂り、今は今日の作戦を考える為に食後の休憩中。

「おれの予想じゃ今日も街に行かないといけないかなー、って思ってたんだけど…」

『？』

ペンギンが紅茶を飲みながらちらりと恋歌に視線を向けると、言われている意味がわからないと恋歌は不思議そうな顔をして首を傾げた。

「いやー、さすが恋歌

１日で効果抜群だ」

「まったくだ」

『？

どういうこと？』

「さぁ…わたしにもさっぱり…」

意味がわかっていないのは恋歌とランだけのようで、お互いに目を合わせて不思議そうな顔をしているだけ。

「人数制限でも…設けた方がいいんじゃねぇか？」

「それも有りかもなー」

「さて、恋歌髪やってやるからこっちおいで」

『はーい』

ぽんぽん、と自分の横の席を叩くシャチの横に恋歌が座り、邪魔にならないように髪を軽くまとめていき、ばちんとハートのバレッタでとめてやる。

「よし、今日も可愛いぞ」

『ありがとう』

シャチにぽん、と背中を叩かれ笑顔で立ち上がり、ランもシャチに髪を整えてもらった後、ペンギンがいつも店の前にだしている看板を持ち上げる。

「さて、じゃあ開けてくるな」

「あ、わたしも行くわ」

一緒に準備をしようとランもペンギンの後ろについて外に出た。

からんからん、と扉の鈴が鳴った直後、昨日までは聞こえなかったざわついた複数人の声が聞こえてくる。

『……』

「ははっ

さぁさぁ今日は店で頑張ろう」

店の扉が開いた瞬間に見えたのは、開店前にもかかわらず見渡す限り人であふれかえっている光景。

ぽかん、としている恋歌の背中をシャチがもう一度ぽん、と軽く叩くとはっとしたような表情になる。

「…なにかあればすぐに言え、いいな？」

気配でかなりの人数が外にいる事に気づいていたローは、恋歌に一声かけ頷いたのを確認してからウィリアムと一緒に2階に上がっていった。

「あ！昨日の子いる！」

「ほんとだ！！」

「あれ！？ランさん！？

だよな…？」

「ええ、おはよう」

「ランさんこんなに可愛かったか…？」

「おーい！おれ昨日会ってるんだけど覚えてる！？」

「お、おれも！！」

「はいはい、まだ開店準備中なんで話しかけないでくださーい」

ランの楽しそうな笑い声と騒がしい男たちの声、それに混じって店の中にいう恋歌の姿を見つけて自分の存在をアピールしてくる男もいる。

それを遮るようにペンギンが手を叩いて声を遮り、でれでれとしている男たちから声をかけられているランの背中を押して店の中に入った。

『す、すごい人、だったね』

「だね」

「昨日の宣伝効果は抜群だったってことだな」

店内の清掃をしようと布巾を渡された恋歌は、ベポと一緒に苦笑いを浮かべている。

「まぁでもこれは一時的なものだ

今は恋歌がいるからこれだけの人が押し寄せてきてるが、恋歌もおれたちもキャプテンの用事が終わればいなくなる

いなくなった後にまた客が来なくなるようじゃ意味がない」

扉に背を預けて腕を組みながらペンギンが正論を呟いたが、ランはそれでいいと笑う。

「あなたたちと一緒に楽しく働けるだけでも充分よ」

「それじゃあウィリアムの依頼が中途半端になる」

「いいのよ

あの人もローくんと一緒に勉強できて楽しそうだし」

((そんなに楽しそうには見えなかったけどな…))

ランの言葉に疑問を持ったが、それには触れずに2階をちらりと見上げた。

「…ま、おれたちはおれたちにできる事をするだけだ」

「だな」

気合いを入れるように袖を捲ったペンギンとシャチは、今日の仕事について話しはじめた。